理学部生物学科の実習を担当した。今日のテーマはショウジョウバエの唾腺染色体の観察である。ショウジョウバエの幼虫の唾液腺の細胞は他の細胞と異なり、とても大きな染色体を持っている。普通は細胞が二つに分裂すると、核の中にある染色体も複製し、分裂したそれぞれの細胞に等しく分配される。 ところが、この唾液腺細胞は、細胞は分裂せずに染色体だけが複製していく。さらに、複製した染色体は分れることなく密着したままとなる。およそ10回くらい複製を繰り返すので、1000本くらいの染色体が束になっている。普通の細胞の染色体は光学顕微鏡では観察できないほど細く、小さいが、1000本が束になって太くなった唾腺染色体は顕微鏡で容易に観察できる。
染色体標本を作るには、体長数ミリの3齢幼虫を実体顕微鏡で見ながら解剖し、唾腺を取り出さなければならない。この作業がかなり難しい。集中力と少しの慣れが必要だ。
染色体標本がうまくできて、その美しい縞模様を目にしたときの感動は自然科学への畏敬と探究心の源となっている。
Figure 1: キイロショウジョウバエ3齢幼虫の唾腺染色体