長谷川君の論文プレスリリース!

博士課程2年の長谷川稜太くんの論文を北大からプレスリリースしました。
「寄生虫に感染された魚は釣られづらくなるか」を確かめた研究です。

Hasegawa R and Koizumi I (2023) Parasites either reduce or increase host vulnerability to fishing: a case study of a parasitic copepod and its salmonid hostThe Science of Nature – Naturwissenschaften, 110, 10

HasegawaFishing

渓流でイワナ釣りをする長谷川君

 

言われる前に、はじめに言っておきます。

 

はい。小学生の自由研究のような内容です!(笑)

 

でも、そういった素人的な発想の研究が意外に行われていないところがサイエンスの面白いところ。研究者は若い時の方が創造的な研究をする、とか初心に返ってテーマをさがせ、とか言われる所以ですね。

とても意外だったのですが、どんな魚が釣られやすいかについては世界中で数多く研究されていますが、寄生虫が釣られやすさに影響するかどうかは全く着目されていませんでした。多くの寄生虫は宿主の活動性や採餌行動に影響を与えます。なので、寄生虫が宿主魚の採餌行動、ひいては釣られやすさに影響することは十分に考えられます。また、釣りをしているとしばしば寄生虫がついた魚が釣れることがあります。このような状況があるにも関わらず「寄生虫がついた魚は釣られづらいのか(釣られやすいのか)」が全く調べられてこなったのは、灯台下暗し(?)といったところでしょうか。
本研究を皮切りに今後世界が我々に追従することを期待しています(笑)

サルミンコーラとイワナ

今回の研究対象であるイワナと、その口に寄生するサルミンコーラ(黄丸&右図)。口の中から見える2つのヒョロヒョロは右の拡大図で足のようにみえるサルミンコーラの卵塊。手(に見える器官)に持っているBullaという器官をイワナの皮下にぶち込んで自らを固定しています。こうみえてエビやカニと同じ甲殻類です。寄生虫はミミズ型(蠕虫)だけでなく、いろんなタイプがいるのです。

今回の研究は本当に遊び心が入った楽しい研究でした。長谷川君は大学院でサケ科の寄生虫であるサルミンコーラ(寄生性甲殻類)の生態をいろんな方面から調べています。その中で、やはり寄生虫といわれるだけあってサルミンコーラがつくと宿主である魚のコンディション(肥満度)が低下することが分かってきました(こちらはまだ論文審査中です)。

ではなぜ寄生されるとコンディションが低下するのか。最初は単純に「口に寄生するし活動性も落ちそうだし餌を食べなくなるのだろう」と考えていました。でも寄生された魚の胃内容物を調べたところ、寄生されていても餌を食べているようでした。「あれ?採餌活動性は意外に下がらないのかな?」といった話をしていました。

すると長谷川君が「じゃぁ次の調査の時に実際に釣ってみて、採餌活性が落ちてるのか確かめてみます」と。「いいね~。面白そう!」と軽い感じで研究が始まりました。

やったことも単純で、まず長谷川君が設定した区間で一通り魚を釣って、その後に釣られなかった魚を電気ショッカーで捕獲する。釣れた魚と釣られなかった魚の寄生率を調べることで「寄生虫に感染した魚は釣られづらくなる」という仮説が検証できます。もちろん釣りに影響しそうな魚の大きさや体重、環境要因といった副次的なデータも取っています。

余談ですが、長谷川君は釣りが大好きで、これまでに国内外で400種以上の魚を釣っています!バードウォッチャーはこれまでに見てきた鳥を記録してリストを作りますが、釣り人で過去に釣ってきた魚を記録している人は少ないです(なので長谷川君は魚全般にとても詳しいです)。今回も類まれな経験を活かして、なんと約500mの調査区間にいた魚の40%も釣ってしまいました(?!?!) 禁漁河川で魚がスレていないとはいえ、ものすごい割合です。言い換えると長谷川君のような釣り人が数人、川で釣った魚を全部持ち帰るとたちまち魚はいなくなってしまいます。キャッチアンドリリースか少量だけ持って帰ることの大事さがよく分かりますね。

解析の結果、「魚は寄生されると釣られづらくなる」というシンプルな関係ではなく、魚のコンディションによって釣られやすさが逆転していました(下図)。つまり、コンディションが低かった(痩せていた)魚は当初の予測通り釣られづらくなっていましたが、太っていた魚は逆に釣られやすくなっていました。魚類をはじめとする多くの動物では、状況が悪い時にはリスクを冒してでも積極的に採餌行動をとる場合があります。したがって、コンディションが良い魚が寄生された場合は、免疫などで寄生虫を排除しよう、あるいは寄生虫に搾取されるエネルギーを補償しよう、と積極的に採餌行動を行った(結果、釣られやすくなった)のかもしれません。ちょっと意外な結果で面白かったです。

釣られやすさと肥満度

寄生された魚(オレンジ△)と寄生されていない魚(青〇)の肥満度(横軸)と釣られたかどうかの関係性(縦軸:釣られた=1、釣られなかった=0)。2つの曲線は統計モデルから推定された「釣られる確率」(オレンジ実線は寄生された魚、青破線は寄生されていない魚)。推定曲線をみると「寄生された魚は肥満度が低いと釣られなくなり、肥満度が高いと釣られやすくなる」ことが分かる。なお、本図では示していないが、体サイズも釣られやすさに大きく影響し、大きな個体ほど釣られやすかった。

ただ、今回の結果はあくまでイワナと口に寄生するサルミンコーラの話です。宿主や寄生虫の種類によっては全く影響がなかったり、全く釣られなくなる可能性も十分に考えられます。今後、いろんな場所でいろんな魚でいろんな寄生虫で同じような研究が行われると、寄生虫と釣られやすさの全体像が見えてくるはずです(世界よ、早く我々に追いついてくれ!)。

また釣り人的には、釣った魚に寄生虫がついていると嫌がる人が多いので(実はこの点も先行研究がなかったので同論文でTwitter解析を行って確かめました)、本研究結果は必ずしも望ましいものではないかもしれません。ただ、たとえ寄生虫がついていても釣れないよりはマシだと感じる(例: イトウが釣れない時はウグイでいいから釣れて欲しい。。。)人も多いと思うので(これについてはまだ検証していません!)、コンディションが良い魚が寄生によって釣られやすくなるのであればむしろ朗報です!

さらにいえば、本研究で寄生虫の面白さ・奥深さが分かってくると、寄生虫が気持ち悪いという感覚が薄れて、寄生虫がついた魚が釣れたらラッキー!くらいに思うようになるかもしれません。特に今回のサルミンコーラは、いわゆる”蠕虫”といわれるようなウネウネ系ではなく、カニやザリガニと同じ甲殻類の仲間で、よく見ると結構カッコいいです! かくいう私も魚の研究をはじめた当初はサルミンコーラが気持ち悪くて、嫌でした。。。寄生された魚が捕れたら寄生虫を取り除いてから再放流していました。でも今はどんな寄生虫でもついていたら面白いし、これも生態系の一部ということでそのまま放流します(「ミミズだって~、オケラだって~、アメンボだって~♪」の生物多様性の精神ですね!)。

本研究が少しでも皆様の心を潤してくれるのであれば幸いです。

 

小泉

P.S.

本研究(自由研究?)は過去の学会発表でも賞をもらっています

サルミンコーラや寄生虫に興味が沸いたら下記サイトもご覧ください (^^)