北海道大学 大学院 環境科学院 生物圏科学専攻

フィールドサイエンスの拠点

水圏生物学コース

水圏生物学コースでは、地球の70%を占める水圏環境、すなわち淡水生態系(河川・湖沼・湿原)と海洋生態系(沿岸・外洋)に生育する生物群を対象として、環境応答、環境適応、生物生産、多様性、モニタリングなどの解明を目的として遺伝子・細胞レベルから個体・群集レベルまで種々の手法を用いて研究を進めています。また、本コースの構成教員は北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーションに所属しているため、大学院での研究教育は個性と魅力あるフィールドを有する臨海実験所等で展開することになります。各実験所の活動はホームページ(http://www.hokudai.ac.jp/fsc/)を参照して下さい。

洞爺湖臨湖実験所
洞爺湖臨湖実験所は、支笏洞爺国立公園内にある国立大学水産系唯一の臨湖実験所です。洞爺湖は、世界でも珍しい火山の噴火の影響を受ける湖ですが、湖水は飲料水として利用されており、環境保全上、極めて重要な湖となっています。また、漁業協同組合によりヒメマスやワカサギの増殖事業が行われており、これらの水産資源は、有珠山噴火などの自然撹乱、温泉の観光施設や水力発電のための酸性河川水導入などの人為的撹乱による影響を度々受けてきました。洞爺臨湖実験所では、これらの水産資源の増減に影響を与える湖水環境条件、特に動植物プランクトンの動態を解析しています。また、実験所内に設置された魚道(人工河川)を遡上してくるヒメマスやサクラマスを実験材料として、水産科学院や環境科学院の教員・大学院生が魚類の生殖生理や遺伝育種などの研究も行っています。

増養殖実習での刺し網によるヒメマスのサンプリング

厚岸臨海実験所
釧路に近い厚岸臨海実験所は、国内で唯一の寒流域に面する臨海実験所として、北方域固有の特徴を持つ海洋生物および生態系の研究の拠点となっています。臨海実験所が位置する厚岸湾・厚岸湖の周辺には、自然環境が良好に保たれた森林域、河川、湿原、汽水域、沿岸域が連続してつながっており、自然生態系とさまざまな生物の相互作用を研究するための絶好のフ ィールドを提供しています。沿岸のプランクトン・ベントス生態系とそこに生息する海洋生物を対象に、生物個体群や群集の変動メカニズムや機能に関する研究を展開するとともに、森林生態系と沿岸生態系のつながりや、地球温暖化に代表されるグローバルな環境変動に対する沿岸生態系の変動予測などに代表される大規模長期研究の国際的な観測拠点として、さまざまな研究プロジェクトに参画しています。
室蘭臨海実験所
室蘭臨海実験所は、90年以上にわたって大型海藻の教育研究を進めてきた世界的にもユニークな臨海実験所です。海藻類は水産資源として有用な種を多く含んでいるとともに、細胞壁に含まれる多糖類(アルギン酸、フコイダン、カラギーナン、アガロースなど)は食品添加物や医薬品など様々な分野で利用されています。また、海藻が作り出す海の林は、他の水産資源を育むとともに、水質浄化や二酸化炭素の海洋貯留に役立っています。室蘭臨海実験所では、海藻が持つ未知なるポテンシャルを引き出すため、フィールド観察をはじめ、海藻類の室内培養による生活環制御、成熟・受精・発生における形態変化と遺伝子発現に関わる研究を行っています。これまでに海藻の大規模なゲノム解読プロジェクトに関わるとともに、ゲノム編集技術の開発と応用を世界に先駆けて行い、受精における雌雄配偶子の認識機構や、細胞壁多糖類と形態形成に関わる研究に取り組んでいます。
臼尻水産実験所
臼尻水産実験所では、北方系沿岸生物や海と川を行き来する小型の通し回遊性動物の生態について研究しています。海岸は人間が生活する陸上と地球の70%を占める海洋との境界線です。海に囲まれた日本は総延長が地球の4分の3周に達する長い海岸線を持っています。北海道の自然海岸は太平洋を南下する滋養に富んだ親潮と日本海を北上する対馬暖流に洗われ、豊富な生物相により四季折々に景観が変わるエコミュージアムです。臼尻水産実験所では、野外生態調査や飼育などの手法で、生き物たちが出題する謎解きに挑戦しています。私達の目標は、北の海や川に暮らす生き物の生態を明らかにし、如何にして海とつきあうか、自然と調和する方法を提案すること、そして研究を通じて私たち自身が環境の世紀と呼ばれる21世紀を拓く海のプロフェッショナルになることです。
七飯淡水実験所
函館近郊の七飯淡水実験所では、サケ科(アメマス、イトウ、サクラマスなど10種18系統)を中心にチョウザメ科やウナギ属など様々な魚種を飼育しており、生理・発生・魚病・行動・養殖・保全など学内外の多様な研究と教育に役立てられています。実験所ではこれらの魚種を実験材料として、フィールドワークとラボワークと飼育実験を組み合わせた生理生態学的研究を行っています。なぜ海と川を回遊するのか?産卵する環境としない環境の違いは?ケンカは個体にどのような影響を及ぼすのか?なぜ酒やウナギは産卵後に死んでしまうのか?チョウザメの北海道繁殖個体群が絶滅してしまった原因は?このような疑問に独自のアプローチで挑戦します。
忍路臨海実験所
忍路臨海実験所および忍路臨海実験所札幌研究室では、沿岸域で大規模な藻場を形成する大型海藻、特にコンブ類について、多様性研究、保全研究、育種研究を行っています。
生態系変動解析分野
函館に居を構える生態系変動解析分野は、世界的に最も生産力の高い北方海域において、海洋環境変化と生物資源変動のメカニズムの解明、および生物資源の持続的利用を図るための海洋生態系の総合的診断に関する教育研究を行うために、平成14年4月1日に設立されました。現在は、生態計測学的な見地より生物学的あるいは物理学的手段を駆使し、海洋生態系(特に海洋生物資源)を包括的にモニタリングするための手法開発を行っています。また、開発した手法を用いた海洋生物資源の動態解析、高次動物の行動解析も同時に行っています。
(写真1)増養殖実習での刺し網によるヒメマスのサンプリング
(写真2)褐藻細胞の微細構造(左)と緑藻スジアオノリとゲノム編集でGFPを発現させたスジアオノリ(右下)。赤色は葉緑体の自家蛍光。
(写真3)海と川を行き来する通し回遊性魚類のルリヨシノボリ。成体が河川に生息する動物の中にも、幼生期を海で過ごすものが多数いる。本種もそのような生態をもつ。
(写真4)成熟したサケ科魚類から作出法で採卵・採精して人工授精を行う。サクラマス・サケ・マスノスケなどは通常1回の繁殖で斃死するが、アメマス・イトウ・ニジマスなどは生残して翌年以降も繁殖可能である。
(写真5)ブリとカンパチの行動計測実験。加速度ロガーを用いることで、活動量の算出や捕食行動の検出が可能である。
(写真6)実習観測船「みさご丸(厚岸臨海実験所)」での、プランクトンネットを使った海洋観測

担当教員紹介

宮下 和士 教授
Kazushi Miyashita, Professor
水圏生物資源計測学、システム水産学
[生態系変動解析分野]

長里 千香子 教授
Chikako Nagasato, Professor
藻類学、細胞生物学
[室蘭臨海実験所]

仲岡 雅裕 教授
Masahiro Nakaoka, Professor
海洋生態学、群集生態学
[厚岸臨海実験所]

四ツ倉 典滋 教授
Norishige Yotsukura, Professor
海産植物学、多様性保全学
[忍路臨海実験所]

南 憲吏 准教授
Kenji Minami, Associate Professor
沿岸資源計測学、音響計測学
[生態系変動解析分野]

伊佐田 智規 准教授
Tomonori Isada, Associate Professor
生物海洋学、衛星海洋学
[厚岸臨海実験所]

萩原 聖士 准教授
Hagihara Seishi, Associate Professor
生理生態学、生殖生理学
[七飯淡水実験所]

飯田 碧 准教授
Midori Iida, Associate Professor
魚類生態学・水圏生物学
[臼尻水産実験所]

山本 潤 助教
Jun Yamamoto, Assistant Professor
リモートセンシング、漁業有用資源

市原 健介 助教
Kensuke Ichihara, Assistant Professor
多様性生物学・進化生物学
[室蘭臨海実験所]


北海道大学 大学院 環境科学院 / 地球環境科学研究院

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