北海道大学 大学院 環境科学院 生物圏科学専攻

フィールドサイエンスの拠点

植物生態・多様性生物学コース

多様性生物学コース

陸域生態系は地球上の様々な気候や立地環境の中で多様な植生タイプ、群集構造、生活形組成を持ち、多くの生物が複雑な相互作用を形成しながら多様な空間構造と生態系機能を創出しています。中でも植物と昆虫は最も多様性の高い分類群です。地球上の生物多様性維持機構や生態系機能の解明には、植物とこれをめぐる生物の諸生態プロセスの理解が不可欠です。植物生態・多様性生物学コースでは、陸域生態系の植物と昆虫を中心とした生態学全般に関する研究と教育を行います。野外における調査研究、環境を制御した実験、得られた情報の解析手法の検討、理論モデルの開発を通して、様々な角度から陸域生態系の環境応答や生態系機能の解明を探ります。
研究対象とするスケールは、個々の植物や昆虫の繁殖プロセス、個体群動態、群集動態、景観構造と多岐にわたっています。研究のアプローチは、生理生態学、生物間相互作用、集団遺伝学、数理生態学、計算生態学など多くの関連分野に跨がった総合的な観点で行っています。担当スタッフは、地球環境科学研究院と北方生物圏フ ィールド科学センターに所属しており、大学院生には、基礎生態学の講義、野外実習、各種セミナーを通じて、体系的な学習が出来るようにカリキュラムが組まれています。

植物生態・多様性生物学コースのホームページ -> https://noah.ees.hokudai.ac.jp/biodiversity/index.html

主な研究対象:北方林、温帯林、熱帯林、高山帯、湿原、火山地域、海浜など様々な陸域生態系を対象に、樹形の形成過程、森林における多種共存機構や生態系機能、攪乱からの植生遷移過程、植物や昆虫の進化機構、送粉系や植食系を介した生物間相互作用などに関する研究を行っています。様々な構造を持ったデータ解析やシミュレーションモデルの開発などの計算生態学的研究も行 っています。また、地球温暖化に代表される気候変動や人為攪乱が陸域生態系に及ぼす影響など応用生態学的課題にも取り組んでいます。

苫小牧研究林河畔林での植物繁殖生態調査
長期森林調査を行っている東南アジア最高峰のキナ
バル山(ボルネオ島)。山頂部の平均気温は北海道と
同じ。

多様な研究フィールド:北海道の自然生態系を中心に、熱帯からツンドラ地域まで、多様な陸域生態系でフィールド調査や実験を行っています。主な国内調査地は、北大研究林(天塩、中川、雨龍、苫小牧、檜山、和歌山)、大雪山系、阿寒・知床山系、サロベツ湿原、有珠山、駒ヶ岳、屋久島、他大学演習林などです。北大研究林、知床半島原生自然保護地域、雄阿寒岳原生林、大雪山国立公園には長期モニタリングサイトや大規模野外実験区を有しています。熱帯地域では、マレーシア半島、ボルネオ島、インドネシアの低地多雨林・高地林などで調査を行っています。その他、フィンランドの北方林、モンゴル高原、アラスカ、カナディアンロッキー、ニ ュージーランド、ネパール、台湾の山岳地域などでもこれまでに調査を行ってきました。

有珠山の 2000 年火口附近を 2016 年に撮影。枯死した木々が見えるように噴火以前は森林だった。
巨大ケージを造成して行っている進化実験
PipeTree: 亜高山帯林の動態シミュレータ

担当教員紹介

相場 慎一郎 教授
Shin-ichiro Aiba, Professor
植物生態学・森林生態学
 森林の骨組みをなす樹木は、光・水・栄養塩という同じ資源を利用しながら、多種が共存しています。また、緯度・標高・土壌条件などの環境傾度にそって、森林の樹種多様性と種組成は変化します。一般に、温帯よりも熱帯で多様性が高く、熱帯でも山を登ると多様性が低下します。多様性が低い場所では、針葉樹がしばしば優占します。以上のような森林生態系に普遍的な現象・パターンに興味を持って、日本から東南アジアにかけての森林で、長期野外観測に基づき植物多様性と生態系機能の関係を研究しています。特に、屋久島やマレーシア・キナバル山では、20年以上にわたる長期観測を継続中です。

工藤  岳 准教授
Gaku Kudo, Associate Professor
植物生態学、送粉生態学、気候変動生態学
 植物の繁殖生態学、送粉過程を介した生物間相互作用、季節適応と生活史進化、気候変動が北方圏生態系に及ぼす影響などが主要研究テーマです。大雪山の高山生態系と札幌近郊の冷温帯林では、植物の開花構造と訪花性昆虫の長期モニタリングを行 っています。送粉系が持つ群集スケールのフェノロジー(生物季節)構造と生態機能の関連性について、海外の山岳生態系との比較も行っています。研究手法は、目的に応じて分子から景観レベルまで多岐に渡ります。

久保 拓弥 助 教
Takuya Kubo, Assistant Professor
計算生態学・生態統計学
 生態学研究に必要な数理モデル、とくにデータ解析のための統計モデリングならびに樹木成長モデルを研究しています。とくに対象生物の個体差・地域差を考慮した階層ベイズモデル、生物集団・生物個体の時間変化を解析する状態空間モデル、生物分布の空間構造を解析するベイズ空間モデル、成長過程における植物個体内の資源分配の個体差を解析するベイズ資源分配モデルなどを研究しています。

露崎 史朗 教 授(副担当)
Shiro Tsuyuzaki, Professor
撹乱生態学
 撹乱をキーワードに、生態系(主に植物群集)の回復機構に関する研究を行っています。具体的には、一次遷移と二次遷移を分けることなく、乾性遷移と湿性遷移をも分けることなく、人為撹乱を考慮しても、説明可能な遷移理論の構築を試みています。具体的な調査地-撹乱の関係で示すなら、火山-噴火、湿原-泥炭採掘、森林-火災、スキー場-造成、鉱山-採掘、となります。これらの知見を統合し、生態系の保全と復元への応用も試みています。

中村 誠宏 教授(副担当)
Masahiro Nakamura, Professor
群集生態学
 森林における植物と昆虫の相互作用を中心に群集生態学の研究を進めています。気候変動や生物多様性の機能を視野にいれて研究を展開しています。多地点観測や長期モニタリングから新たなパターンを検出し、環境を制御する操作実験を用いてその因果関係を解明するのが主な手法です。基本的なアプローチのひとつとして、同じ種や遺伝子型の植物が環境条件に応じて表現型を変化させる「表現型可塑性」に着目して、樹木の可塑的応答を介して物理的(台風撹乱、地球温暖化)・生物的環境(昆虫被食)の変化が植食性昆虫群集に与える影響の解明について取り組んでいます。

内海 俊介 准教授(副担当)
Shunsuke Utsumi, Associate Professor
進化群集生態学
 生物多様性の創出と維持の仕組みを明らかにするために、進化生物学と群集生態学の知見を統合した観点で研究を進めています。植物と深く関わりを持つ昆虫・共生微生物が主な研究材料です。特に、種内の多様性と種の多様性の間のダイナミックなフィードバックが双方の維持に果たす役割に注目しており、小さい時間スケールでの適応進化のプロセスの重要性を調べています。森林・草地生態系でのフィールドワークを行っていますが、それと同時にゲノミクス・集団遺伝学・野外/室内操作実験も主要なアプローチとしています。

北海道大学 大学院 環境科学院 / 地球環境科学研究院

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