森林圏フィールド科学コース
変動環境下における森林生態系の構造や機能、群集動態、持続的利用に関する教育を行います。コースは、生物多様性、生態系機能、地域資源管理の3教育分野を含みます。森林圏ステーションの有する広大で多様な研究林フィールド、多角的な調査・観測設備、充実した技術スタッフによる研究支援体制が特徴です。森林生態系や周辺環境の長期モニタリングや大規模な野外操作実験などを通して、進行する地球温暖化、大気汚染、移入種、土地利用変化に代表されるさまざまな人為攪乱下での森林生態系の応答や維持機構を解明し、環境修復、環境保全、生物多様性・生態系サービス保全に関わる研究や、地域社会において森林生態系を持続的に管理する理論や技術開発に関するテーマを取り扱っています。学生は、研究テーマや内容に応じて札幌院生室、北管理部院生室(名寄市)のほか、各地方研究林の院生室(苫小牧市、幌延町、音威子府村、幌加内町、古座川町など)に所属することができます。 本コースを担当する指導教員は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーションに所属しています。
森林圏フィールド科学コースのホームページ -> https://forestcsv.ees.hokudai.ac.jp/ja/
生物多様性分野では、森林生態系を対象として、主に樹木、昆虫、脊椎動物を中心に、生物群集の生物間相互作用や変動環境に対する応答、生物の生活史や進化、個体群の構造など、生物・生態系の保全に関する基礎的な研究を行っています。また、大規模野外操作実験を積極的に導入していることも特徴です。研究分野としては、群集生態学、植物生態学、菌類学、個体群生態学、進化生態学、集団遺伝学、哺乳類学、野生動物管理学、保全生態学に対応しています。
地域資源管理分野では、森林資源のリモートセンシングによる広域観測と評価、森林の造成・管理手法の改良と体系化、地域資源の利用と保全方法の検討、自然と共生する流域社会形成に関する基礎的な研究を行っています。地域資源の保全や管理の方法を追求し、自然共生社会への方策を提示することを目標としています。研究分野としては、造林学、森林計測学などに対応しています。
生態系機能分野では、森林生態系における物質循環、土壌、河川水質、気象・水文などに関する現地観測や野外実験を通じて、森林のもつ環境保全機能や生態系サービスの解明に関する研究を行っています。大気汚染や地球温暖化に対する調査観測や野外実験等が実施されています。研究分野としては生態系生態学、生物地球化学、土壌学、水文・微気象学に対応しています。
研究内容の紹介
自然・人為攪乱による森林群集、野生動物、生物多様性の動態変動:過去から現在にかけてのさまざまな攪乱要因(森林伐採、台風、地球温暖化、狩猟、土地利用変化)が森林生態系の動植物群集や生物多様性にどのように影響しているのかを明らかにするため、大規模で長期的な継続調査や要因解析、仮説検証型の野外操作実験を行っています。苫小牧研究林でのクレーンサイトでは、森林構造や生態機能の空間分布調査や野外温暖化実験などを実施しています。
環境変動下における森林生態系の物質循環と環境保全機能:大気汚染や地球温暖化などの環境変化に対する森林の環境保全機能や生態系サービスの変動を明らかにするために、植生や土壌、微生物をめぐる養分循環や水質形成に関する調査観測、野外実験等を実施しています。雨龍研究林の実験流域では土壌微生物による窒素循環動態や、流域生態系と河川水質の相互関係に関する総合調査を行っています。
森林生態系における生物間相互作用の解明:樹木と昆虫、水生生物間など、捕食者と被食者の相互関係について、フィールドでの詳細観察や操作実験を通じて明らかにするための研究を行っています。苫小牧研究林や中川研究林では落葉量を改変したり、成木の枝や地下部を暖める操作実験に対する樹木や生態系の変化が被食ー捕食関係にどのような影響を及ぼすかについて研究を進めています。苫小牧研究林や天塩研究林では、林内の自然池や人工池で操作実験を行い、水生動物の食う-食われるの関係や生存戦略について調べています。
大規模野外実験による流域スケールでの北方林生態系動態の解明:気候・土壌条件の異なった複数の小流域を対象に、栄養段階毎の生物多様性と生態系の炭素固定能や物質循環速度の両者を同時に調査し、生産者の多様性や利用可能な栄養塩量をコントロールした大規模野外実験を行っています。生物多様性と生態系機能の関係を、景観スケ ールでのパターン解析とそのメカニズムを実験的に明らかにしています。天塩研究林では、カラマツ類育林過程における集水域レベルの炭素循環機能を評価するために、14haに及ぶ針広混交林を改変し、グイマツ雑種F1を新植しました。
既存植生からの継続したモニタリング(二酸化炭素フラックスや養分循環、河川水質など)により、天然林伐採あるいは植林活動が流域の炭素循環に及ぼす影響評価を行っています。
フィールドでの操作実験-シカ密度操作実験と温暖化操作実験-:シカがいる・いないで森林構造や物質循環はどんな違いを見せるのでしょうか?シカが植生を破壊するという報告がありますが、一方、シカが植物種多様性を高めているという報告もあります。どちらが本当なのでしょうか、どんな条件が効いているのでしょうか?このプロジェクトでは森林内に柵を設けてシカの生息密度をゼロから高密度まで段階的に変えて、シカの影響を長期的・多面的に研究しています。また、地球温暖化に対する森林生態系の応答を解明するために、電熱線を樹木に巻きつけたり、地中に埋設するなどの温暖化操作実験も行っています。成木を対象とした野外実験では、樹木の葉の光合成能力や養分状態、化学成分組成などの生理パラメータや、昆虫と樹木の生物間相互作用などをターゲットに総合的な影響の調査研究を行っています。
持続可能な森林資源利用に関する研究:多様な資源問題、環境問題への対応策を考える目的で、森林を中心とする地域資源の管理のあり方を自然科学および社会科学の双方の立場から分析しています。生物多様性や生態系機能の保全、森林の多目的利用を考慮した森林・土地・景観などの管理方法を提示することを目標にしています。また、人工衛星や航空機観測によるリモートセンシングと地上計測の緊密連携による、広域スケールでの評価精度向上に向けた取り組みを行っています。
雨龍研究林の長期観察林(左)。この箇所では1991年以降、樹木の動態、種子生産、フェノロジー、野ネズミの個体数など、多面的な長期観測を行なっています。野ネズミの調査によって、アカネズミの個体数変動がミズナラの種子生産に強く依存していることなどが明らかになっています(右)。
物質循環プロセスの調査。落葉や土壌、河川水における物質の動きや水質変化を調べることで、森林生態系の環境保全機能を明らかにしようとしています。
コナラの葉を食べる蛾幼虫(左)と、苫小牧研究林でのリターフォール操作実験(右)
林内に掘削した池での操作実験(左)。両生類幼生(右)の生活史戦略や生態的機能について調べています。
担当教員紹介
生物多様性分野
揚妻 直樹 教授
Naoki Agetsuma, Professor
哺乳類生態学・森林生態学;哺乳類、生態、森林、生息地、人為撹乱、適応
中村 誠宏 教授
Masahiro Nakamura, Professor
群集生態学;昆虫-植物の相互作用、地球温暖化、林冠、地理変異、大規模野外実験
植竹 淳 准教授
Jun Uetake, Associate Professor
微生物生態学;環境DNA、バイオエアロゾル 、土壌物質循環、氷河生態系、気候変動
岸田 治 准教授
Osamu Kishida, Associate Professor
進化生態学;表現型可塑性、捕食者-被食者、両生類、誘導防御、適応
倉田 正観 助教
Seikan Kurata, Assistant Professor
植物分類学・系統地理学;保全遺伝、高山植物、
分布変遷、人為撹乱
生態系機能分野
高木 健太郎 教授
Kentaro Takagi, Professor
農林気象学;炭素循環、水循環、フラックス、北方林
野村 睦 助教
Mutsumi Nomura, Assistant Professor
水文学;森林水文、雪水文、河川流出、融雪、水収支
大平 充 助教
Mitsuru Ohira, Assistant Professor
河川生態学・地形学;森林撹乱、流域管理、水生
昆虫、魚類
地域資源管理分野
吉田 俊也 教授
Toshiya Yoshida, Professor
森林生態学;森林施業、森林動態、混交林、生物多様性保全、造林学
小林 真 准教授
Makoto Kobayashi, Associate Professor
樹木生理生態学;北方林、ツンドラ、土壌、気候変動、生物地球化学
中路 達郎 准教授
Tatsuro Nakaji, Associate Professor
樹木生理生態学;森林計測、リモートセンシング、環境応答
車 柱榮 准教授
Cha Joo Young, Associate Professor
造林学;森林再生、キノコ、菌根菌、タイガ林、熱帯林
福澤 加里部 准教授
Karibu Fukuzawa, Associate Professor
生物地球科学;生態系機能、物質循環、土壌、ササの機能