カタクリの種子散布

どうもこんにちは、D3の富田です。

6月も下旬になり、北海道は初夏を迎えています。植物がぐんぐん成長し、それを食べる虫が沢山飛び交い、鳥がピーチクパーチク鳴きかわしてますね。

今日は春植物カタクリの話題です。カタクリはユリ科の多年草で、花を咲かすまで9年くらいかかるらしいです。地上に顔を出してるのは、4~5月のわずか2カ月、この期間に可憐な花を楽しめます。寿命はなんと50年くらいだと考えられているようです!

カタクリはしばしば里山に群落を作り、カメラマンや自然好きから人気があります。北海道だと旭川の突哨山が有名ですね。また、昔の人がカタクリの鱗茎から片栗粉を作ってたので名前だけは知ってる人は多いでしょう。DSC00737

カタクリは花が有名なので、花が枯れた後に彼らがどのように生活を送るかを知らない人は多いかもしれません。当然花を咲かせているわけなので種を付け、どっかに散布されていきます。カタクリの種は、なんとぅ、アリに運ばれるのです!このイベントは花が枯れて地味な果実(あのフォルム、僕は好きですけど)が成熟する6月に起こります。ほとんどの人はもうカタクリを認識してない時期ですね。。。

クサアリっぽいアリがカタクリを運ぶ、二匹で協力しているね

クサアリっぽいアリがカタクリを運ぶ、二匹で協力しているね

上の写真はカタクリの種をクサアリの仲間?がせっせと運んでいる様子です。種は普通はもっと茶色いのですが、これが白い理由は、種子散布の様子見たさに果実を強引に破って地面においたからです。お許しくだされ!

どうしてアリはカタクリの種を運ぶのでしょうか?種を食べるためでしょうか。でもそうするとカタクリはただ食べられるだけで発芽できません。実は、カタクリは種にエライオソームという何とも仰々しい名前の付着物を付けており、アリの目的はこのエライオソームであり、種本体ではないのです。つまりカタクリは、アリにエライオソームという賃金をアリに与えて、種子を遠くに運んでもらっているのです!

実際に家の庭に生えていたカタクリから種を取って地面に置いたら、ものの数秒でクサアリが集まってきて種を運び始めました。おそらく何らかの揮発性物質を出しているのでしょう。匂いにつられてか、まだ地面に落ちていない果実に入っている種を引きずり出しているアリも居ました。運ばれた種は、巣の中でエライオソームだけを外して外に放置されるらしいです。このようにしてカタクリの種は本体を傷つけられることなく遠くに移動するのです。

種子を散布して役目を終えたカタクリの花茎。見る影もないけど、お疲れ様!!

種子を散布して役目を終えたカタクリの花茎。見る影もないけど、お疲れ様!!

不思議なのは、なぜ巣までエライオソームを外さずに運ぶんだろうということですね。種子は重いから事前にエライオソームだけを外してしまった方が運ぶ手間は低く済みそうです。アリは巣穴の前でエサをハンドリングしていることが多い気がします。大きすぎるとほどほどのサイズまで分解してますが。この適応的な意義は勉強不足で知りませんが、捕食や他のアリからの略奪を避けるために、エサはとにかく早く陣地に持ちかえっているのですかね。まあそういったアリの特性を上手くカタクリは利用しているのでしょう。リスとドングリの関係も、リスが食べきれる量以上をストックしたり、忘れたりすることで、一部の運ばれたドングリは捕食されずに発芽できるようになっています。このように絶妙な関係がアリとカタクリにはあるのでしょう。

石の下のアリの巣からニョキっと生えるカタクリの実生。これはアリ散布で無事に発芽した証拠かな??

石の下のアリの巣からニョキっと生えるカタクリの実生。中央やや右下の葉っぱ。これはアリ散布で無事に発芽した証拠かな??

アリは本当にバイオマスが高いので、カタクリの自然群落の地下にはもしかしたらアリの大コロニーがあって、まばらに分布していたカタクリがどんどんコロニーに集められることでできたのかもしれないですね。カタクリが枯れた後にも群落だった場所には沢山のアリがいて、生態系エンジニアとして、その場所の生物同士の繋がりや生態系の物質循環までを変えたりしているかもしれません。そしてアリが変えた環境はカタクリにとってポジティブなのだろうか??。こういった時間的に隔てらた生物間の相互作用は面白いトピックですね!

あと自分の家のカタクリは、岩が集まっている場所に小群落を作っています。一部のアリは岩場で営巣するので、もしかしたらアリがこのんで営巣する場所でこの群落はできたのかもしれません。(まあ群落といっても10株くらいですけど(^^)/)

庭のカタクリ、岩見えないけど、右に見えるのがカタクリの果実

庭のカタクリ、岩見えないけど、右に見えるのがカタクリの果実

ちなみに、カタクリのような種子散布戦略を持つ植物はアリ散布植物といい、スミレやニリンソウなど割と広い分類群で見られるらしく、そこまで珍しい散布様式ではないようです。アリが種を運んでいたら、それはアリと植物の相利関係なので、温かく見守ってやっててくださいね。生き物好きのお子さんの夏休みの自由研究にちょうどいいと進めたかったけど、6月だったから無理ですね。

実はカタクリがアリ散布であることは学部のころから知ってましたが、いざ観察してみると感動しました。研究者をやっていると、知識で満足したり、既知のことに興味を持たなくなります。新規性にこだわるあまり、身近な自然を楽しむことの延長戦で研究を始めたという原点を忘れてしまいがちになります。既知かどうかと面白いかどうかは混同しがちですが、別物ですね。面白いものは面白いのです!!

サイハイラン

サイハイラン