福井君の論文プレスリリース

小泉研OB福井君(2019年学位取得)の論文をプレスリリースしました。

Fukui S, Kasugai K, Sawada A and Koizumi I (2020) Evidence for introgressive hybridization between native Dolly Varden Salvelinus curilus (syn. Salvelinus malma) and introduced brook trout Salvelinus fontinalis in the Nishibetsu River of Hokkaido, Japan. Zoological Scienceonline early

日本では北海道にのみ生息するオショロコマと北米東海岸原産のカワマスが交雑していることを報告しました。一部の釣り人の間では噂されており(例えば、「オショロコマの森」)、また今回の共同研究者の春日井さんも過去に「交雑らしき個体が見られる」と論文を書いています。しかし、両者は姿・形が似ているので外見から断定するのは困難であり、これまで遺伝的な裏付けが取られていませんでした。今回、核DNAであるマイクロサテライトDNAと母系遺伝をするmtDNAを調べることにより、交雑の実態を明らかにしました。

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オショロコマ(上)、交雑個体(中)、カワマス(下)。 オショロコマは顔が丸く下顎が引っ込んでおり、背びれには明瞭な模様がない。カワマスは口が大きく背びれに黒い虫食い模様がある。雑種は両者の中間的な形質を持つ。ここで用いた写真は比較的特徴が分かりやすいが、実際は純粋なオショロコマやカワマスでも見た目の個体差が非常に大きく、雑種も第二世代目以降になると見た目での判別が極めて困難になる。

主要な結果としては、雑種第2世代目が確認され、オショロコマとカワマスの雑種(第1世代)は繁殖力のある子どもを残せることが分かりました(種間交雑の場合は子供が不妊であることが多い)。これは、このまま交雑が続けば全てが雑種の集団(Hybrid swarm)になる可能性を示唆しています。さらに、ある雑種個体は同じ河川に生息するイワナ(アメマス)のmtDNAを保有していました。今回はイワナとカワマスの交雑個体は見つかりませんでしたが、他の河川では頻繁に交雑しています。これは何を意味するかというと、自然状態では北海道のオショロコマとイワナはほとんど交雑しないのですが、両者と交雑するカワマスが導入されることにより間接的に交雑が起きる、ということです。こういった雑種個体がどれほど子どもを残せるかは不明ですが、在来種であるオショロコマとイワナの遺伝子組成を撹乱させるのは明らかです(genetic pollutionとも呼ばれます)。

カワマスも赤や青の斑点があり、オショロコマと似ていてとても綺麗です(しかも美味しい!)。なので、個人的には好きな魚なのですが、やはり在来生態系に与える影響が大きければ適切な管理が必要ですね。

さらに知りたい方は、プレスリリース記事あるいは論文を読んで頂ければと思います (^^)

あと、福井君の過去のブログには人工授精させた交雑個体の写真が載っています。同じ雑種の兄妹でも見た目がかなり違うようです。雑種はいろんな表現型が出てくるので見た目での判断は本当に難しいです。。。