回遊・生活史多型の進化

キーワード

降海型、降湖型、降河型、生活史多型、遺伝的変異、表現型可塑性、適応度、寄生虫

 対象生物

サクラマス、アメマス、オショロコマ、ウグイ、イトヨ

鳥の渡り、ヌーの大移動、サケやウナギの大海原への回遊。私達だったら簡単に迷子になってしまいそうな長距離の季節移動を生物達はいとも簡単にやってのけます。こういった回遊に多くの研究者が魅了されてきたのも想像に難くないと思います。本研究室では特に、サケ科やウグイを用いて回遊の研究をしています。

誰が海へ行って誰が残るか?

鳥類や偶蹄類の中でも同一個体群中に季節移動する個体としない個体が共存することがあります(Partial migration)。サケ科魚類の場合は、海へ移動すると非常に大きくなるので両者の見た目は大きく異なります。どういった個体が回遊(残留)するのか?それは遺伝的に決まっているのか、環境によって決まるのか?回遊型と残留型ではどちらがエリートなのか?さらに、回遊型(残留型)が増えると個体群動態、あるいは生態系全体にどのような影響を及ぼすのか?こういった問いに、野外調査、室内実験、次世代シーケンサー解析、理論モデルを用いて答えていきます。本研究室のメインテーマのひとつです。

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海に回遊した個体(サクラマス)と河川に残留した個体(ヤマメ)。どちらも成熟オス。同じ両親からでも両方のタイプが生まれる(サンル川上流。玉手剛氏撮影)。

ウグイよ、お前もか?

最も研究が進んでいるサケ科魚類では回遊に関して様々なパターンが明らかになっています。例えば、降海型の方が大きくなる、メスの方が降海しやすい、北方へ行くほど降海型が増える、などです。一方、他の回遊魚については驚くほど研究が進んでいません。ウグイは日本全国に分布し、数が多く味が不味いことから“雑魚”の代表として扱われています。しかし、本種は日本海周辺の極東域のみに生息し、コイ科魚類の中では非常に稀な降海性を有する貴重な魚類です。有名な図鑑にも「サケ科魚類と同様、北方ほど降海型が増える」と記載されていますが、当研究室で行った研究によるとどうやらサケ科魚類とは全く違う傾向があるような(というか、何も傾向がないような???)。様々な生物の回遊パターンを調べることにより、その一般性や特異性が明らかになります。

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婚姻色を出したウグイ

海も湖も川も同じ?

サケ科魚類では、海に降る個体群(降海型)、湖に降る個体群(降湖型)がよく知られています。一方、同一河川内でも支流と本流を行き来する個体群も報告されていますが、どういった個体が回遊するかなど詳細は明らかになっていませんでした。本研究室では世界で初めて、河川性サケ科魚類でも、メスにおいて回遊しやすい、回遊型は大きくなり体サイズが二峰型になる、という降海型や降湖型と同じパターンを発見しました。一方で、降海型で見られるような顕著な銀化変態は認められませんでした。今後、降海型、降湖型と比較して、どれだけ一致して、どこが違うのかを明らかにすれば、サケ科魚類の回遊性に関して理解が大きく深まると期待できます。35