繁殖戦略・配偶システム

キーワード

性選択、つがい外交尾、繁殖成功度、二次性徴、一夫一妻、乱婚、複数回交尾、配偶者選択、ファイター戦術、スニーカー戦術、種間交雑

 対象生物

オショロコマ、アメマス(エゾイワナ)、カワマス、サクラマス、ヤツメウナギ、ウグイ、シジュウカラ、カラ類

みんな大好き繁殖生態!繁殖は生存と並んで最も重要なイベントです。このため多くの生物が繁殖に多大な労力をかけます。その結果、クジャクの羽やシカの角など非常に顕著な形質が進化してきました。もちろん多様な繁殖行動も知られており、これらを観察するだけでも楽しいです。さらに研究者にとって嬉しいのは、いつもはどこにいるのか分からない生き物達も繁殖期には特定の場所に集まってきます。このためデータが取りやすいというメリットもあります。繁殖生態の研究をしている学生達は多いですが、ここでは3つを紹介します。

わたしは誰の子?

多くの鳥類は夫婦で協力して子育てをします。その様子はおしどり夫婦などと模範的な例えに使われます。しかし、1990年初頭、DNAを用いた親子判別がこの概念を衝撃的に覆しました。

例えば、下の可愛いシジュウカラの子供達。実は平均して10-20%が浮気相手の子供だったのです!どんなカップルが浮気しているのか?どんな相手と浮気しているのか?鳥でも誠実な個体と浮気性の個体が分かれるのか?野生動物の生態を調べることでヒトの理解に繋がる?かも???

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巣箱で親の帰りを待つシジュウカラの子供建。

 

それって協力?

人間では協力行動は一般的です。でも実は野生動物の協力行動は非常に稀。他人のために行う利他行動は自分の子孫を残す上でとても不利になります。血縁者を助けるのは意味がありますが、赤の他人を助ける行動は通常は進化しません。そんな一見つじつまの合わない行動がヤツメウナギの繁殖で見られます。ヤツメウナギは川底の石を運んで窪みを作って、そこに産卵します。その石運び、複数のオスがあたかも協力しているように行うのです(さらに興味深いことにメスも巣作りに参加)。ヤツメウナギは複数の雌雄が混じりあって産卵する典型的な乱婚です。このような乱婚のシステムでは特に協力的な行動が起こりづらいと考えられます。このような場合、ズルをして石運びは他のオスに任せて自分は繁殖にのみ専念した方が適応的になります。この不思議な繁殖の理由を明らかにするべく、ヤツメウナギの一匹一匹にマーキングをして非常に詳細なビデオ解析を行っています。どの個体が何回石を運んだ、どの個体がどの個体と交配した、という記録をビデオのスロー再生と巻き戻しを繰り返しながらひたすらデータにします。わずか一日分のデータ入力に数ヶ月を要し、850回の交尾と3700回の石運び(その他いろんな行動)など膨大なテータが得られています。

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実験水槽で産卵するシベリアヤツメ。右端でオスがメスに巻き付いて産卵している。放出した卵が漂っているのも見える。

 

お前、どれだけ子供残した?

自然の中で生物を見ていたら、その個体がどれくらい長く生き、どれくらいの子供を残したのかが非常に気になります。特殊な標識で一個体一個体を個体識別して何度も調査に行って生存率を調べたり、DNA組織を採取し親子判別を行うことで繁殖成功度を特定したりします。空知川では外来種のカワマスと在来種のアメマスが交雑しています。今後の動向を調べるために、両種および雑種個体の生存率や繁殖成功度を調べています。特にカワマスのオスは鼻先が長くなったり、体高が高くなったりする二次性徴を顕著に発達させます。このような二次性徴は子供を残す上で有利と考えられていますが、実際にそうなっているのでしょうか。ひたすら親個体と子供を集めて親子判別を行いました。全部で200個体の親候補と450個体の子供候補を捕獲しました。マイクロサテライトDNAの親子判別の結果、現段階で子供の約半分において少なくとも片親が特定されました。各親個体が残した子供の数は0から40匹までと大きくばらついていました。実際にどんな個体が子供を残していたか、、、はまだ内緒ですが、このように自然の中で生きる生物の残した子供数が分かるのは感動的です。

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二次性徴を発達させた外来カワマス(下写真)。同一個体の非繁殖期と繁殖期。尖った吻、高い背中、派手な婚姻色は、それぞれ攻撃、防御、メスへのアピールとして機能すると考えられている。