キーワード
個体群動態、メタ個体群、長期野外データ、分断化、移住、環境要因、同調性、統計モデリング
対象生物
オショロコマ、アメマス(エゾイワナ)、エゾリス、エゾビル
自然の中では、生物の数は常に変動しています。漁業や山菜採りからも分かるように、時に極端な豊凶があります。こういった数の変動を生み出す要因は何でしょうか?また、環境変化の激しい現在、絶滅や新規定着も含めて個体群の将来予測はどこまで可能でしょうか?これらは生態学の中心的・古典的課題ですが、まだまだ分からないことが山積みです。例えば、本研究室のメインテーマである空知川のオショロコマ。もう15年以上にわたって数の変化を追っていますが、未だに決定要因が分かりません。先行研究では河川に棲むサケ科魚類では、春の増水や夏の渇水が数の変化に大きく影響することが報告されていますが、これらの影響は未だ検出されていません。
私達は数の変化の中でも特に生息地間の個体の移動に着目しています。ひとつの生息地では個体群が存続できないとしても、他の生息地から移入があれば個体群が長期間存続できます。この考え方はメタ個体群と呼ばれ、人間活動により生息地が細分化されている現在、保全の観点からも大きく注目されています。ひとつの生息地に形成される集団を局所個体群、複数の局所個体群が移住によって結びついた全体を“メタ(= super)”個体群と呼びます。上述したオショロコマは小さい枝沢(支流)のみで繁殖集団を形成するため、各支流が局所個体群、水系全体がメタ個体群に相当します。実際、支流レベルでは個体群の絶滅や絶滅後の再新生が示唆されており、移住が個体数変動に及ぼす影響は大きそうです。
また、帯広近辺のエゾリスは分断された森林に生息しています。町中の非常に小さい公園にさえ姿を見せることが多く、このような環境の中でどのように個体群が維持されているのだろうと不思議に思います。ここでも生息地間の移動が重要だと考えていますが、さらに個体の個性にも着目しています。都市部では大胆な個体が増えることが報告されていますが、このような大胆な個体が生息地間の連結を高めている可能性があります。
メタ個体群の考え方は広く普及している一方で、実証研究が少ないという問題点もあります。生息地間の繋がりが全体の個体群動態に与える影響を調べるためには、複数の生息地で長期にわたり調査をする必要があるからです。この問題に対して、本研究室では比較的調査のしやすい調査システムを選んで、野外調査だけでなくDNA解析や数理モデリングなども取り入れて研究を行っています。後は何と言っても体力と根性で勝負!興味がある人は是非!