3日間の集中講義

はじめまして!修士1年生の長塚です。この記事では、9月11日から13日までの3日間で行われた集中講義について紹介します。

環境科学院では各専攻に集中講義と呼ばれる授業が設けられており、小泉研が所属する生物圏科学専攻でもこの講義がこの夏開かれました。今回は講師に東北大学の近藤倫生先生をお招きし、1日6時間、先生の専門である理論生態学について先生の研究の軌跡を辿りながら勉強させて頂きました。

1日目は如何に生態学研究、特に群集生態学研究が難しいものなのか、ということを先生含む受講者全員で確認し合うものでした。シンプルな理論モデルでさえ条件によっては個体数変動の長期予測ができなくなること。しかも実際の自然生態系では個体群動態を決定する種間相互作用はそんなにシンプルなモデルでは表せないこと。さらにその種間相互作用の相対的重要性は時間空間スケールによって大きく変わってしまうこと。これは…群集動態を本当に”理解する”ことなんてできないのではないか…そんな軽い絶望感を味わった受講者も多かったと思います。笑

ではそんな中実際の群集生態学研究はどのような歩みを見せているか。2日目は食物網研究を例に取ってそれを講義して頂きました。自然界の食物網には内的安定な栄養モジュールが多くて、でも外的安定な栄養モジュールもあって、でもでもそんな外的安定モジュールは近くにある内的安定モジュールに支えられていて…なるほどよく分からないが食物網の構造から群集の動態について予測することができるのではないか。そんな期待が学生の間に広がります。少なくとも自分の中には広がりました。そんな中ネスト構造と呼ばれる食物網の構造が紹介されます。なんでもこの構造は相利系でよく見られるものだそうです。この構造が相利系の本質を表しているんじゃないか!?研究者たちもそう思って多くの研究が進みましたが、実はこのネスト構造、相利系なんて特殊なものを仮定しなくても頻繁に現れる構造だということが後に判明します。ネスト構造が相利系の本質じゃなかったのか…。なかなか簡単には分からないものなんだな、という印象が自分の中に残ります。

最終3日目はこれまでの講義をふまえ、現在近藤先生が注目されている群集生態学研究の流れについて紹介して頂きました。一言で言えば、仕組みを知り尽くして組み上げて未来を予想することは難しいから、一旦そっちは休んで仕組みを知らなくても未来が描けるかどうかやってみよう、という試みでした(ニュアンスが違ったらすみません)。初めの二日間で散々mechanistic modelの難しさと限界に触れた身にそんなこと言われたら、仕組み考えなくていいの?いやそれなら嬉しいけど?それで動態予測できるの?と半信半疑になってしまいます。でも出来るみたいです。すごいですね。具体的にはEmpirical Dynamic Modeling (EDM)と呼ばれる手法を使い、具体的な種間相互作用の形や仕組みを仮定することなく、個体群の時系列データのみから未来の個体群動態を予測する方法を教わりました。また、この手法の前提となる豊富な個体群動態データの蓄積という観点から、環境DNAの重要性も強調されていました。近藤先生は環境DNA学会の会長も務められており、実際に琵琶湖で採取した環境DNAに基づく個体群動態データから作ったEDMがある程度の予測精度を示した事例を紹介されていました。

講義は終始和やかな雰囲気で行われ、学生からの質問や先生からの問いかけも多く、活気のある3日間となりました。1日目の最後にはディスカッションの時間もあり、先述した「群集生態系を”理解する”とはどういう状態か」という問いについて活発に議論がされました。仕組みが分かれば予測ができなくてもいいのか…仕組みはひとまず置いておいてとにかく予測ができればいいのか…時間空間スケールの設定はどうするのか…。1時間ほどでしたが、近藤先生自身にも新しい発見があった有意義なディスカッションとなりました。

たった3日間でしたが、とても得たものの大きかった3日間でした。4月頃に軽い気持ちで受講登録した自分を褒めてあげたいです。近藤先生には個人的に自分の研究を見てもらう時間も設けて頂き、本当にご厚意に頭が下がる思いでした。3日間の講義も併せて、この場をお借りしてお礼申し上げます。

群集生態学は難しいですが(笑)、研究しがいのある魅力的な分野だと感じました!近藤先生ありがとうございました!