こんにちは、D3の渥美です。
はじめに
交雑*には多岐にわたる進化的・生態的なインパクトがあります。あまりに多岐にわたりすぎて、それらを包括的に勉強することがとても難しくなっているように思います。少なくとも僕はそうでした。とても近い現象を扱っていて知識を融通しあえるはずの分野の間の意見交流がないように思いますが、これは、包括的に学ぶことの難しさや基礎・応用での研究目的の乖離から来ているように思います。
これを解消したく思い、様々な帰結を簡潔にまとめたレビュー論文を書こうと思ってまとめ英語原稿だけ作ったのですが、統合がきちんとできずどんづまってもう辞めたくなってきました。個体群生態学会に出ているときに、原稿を塩漬けにするのはもったいない、と突然何となく思ったので、日本語でのダイジェストをブログに張り付けます。小泉研ブログの方針ガン無視ですが、ご容赦ください。皆様の知識整理に役立てば幸いです。「ここおかしい!」「一緒に原稿を完成させたい!」「こうゆうアイデアがあれば総説になりえる!」と思ってくださる方がいましたらぜひ渥美(k.atsumi115<at>gmail.com)にご連絡ください!!お待ちしております。
*遺伝的に区別できる集団or種間で生じるMating(Mallet 2005)
多様性を減ずる効果
交雑は、以下の2つのプロセスから、生物多様性を減ずる機構と長くとらえられてきた。
雑種が繁殖可能な時、雑種が親種と繁殖する戻し交雑を介して(Hybrid swarmの形成)、一方の親種の遺伝子がもう一方の親種に広く浸透し(Introgression)、遺伝的に“純粋”な個体が消滅することで親種の遺伝的な独自性がなくなる・・・遺伝子汚染/Genetic swamping。
繁殖相手にダメージを与え生存率を下げる/繁殖機会を奪うといった、親種への直接の負の効果を介して、集団増殖率を下げる・・・繁殖干渉(Reproductive interference)/Demographic swamping。詳しくは生態学会誌の総説を読むと良いです。
多様性を増やす効果
その一方で、交雑は新たな遺伝子組み合わせを作出することで、形質の進化を促進する効果がある。これは長く動植物の育種で用いられてきた。
Adaptive introgression
適応的な対立遺伝子の流入による集団パフォーマンスの向上。
Driftによる近郊弱勢に苦しむ集団への、新規対立遺伝子流入によって集団パフォーマンスが向上するGenetic rescueとは、概念的に違う。
Transgressive segregation
雑種表現型が親種の範囲の外に現れること。
- 遺伝子型間の非線形な相互作用(遺伝子座間:Epistasis、同一遺伝子座内:Overdominance)
・・・遺伝子座間相互作用はセットで遺伝しないと表現型に親と同じ効果が現れない→実質、遺伝しない - 足し算的に表現型にはたらく種特異的な遺伝子座が複数組み合わさる
・・・他の遺伝子座に関わらず、対立遺伝子は一定の効果をもつ→遺伝する
Hybrid speciation
雑種種分化は倍数性の変化を伴うもの(Allopolyploidy:ゲノムの不和合による雑種不稔を伴うため、生じやすい)だけでなく、倍数性の変化を伴わないHomoploid hybrid speciationも普遍的に起こっていることが分かってきている。
よく想定されるHomoploid hybrid speciationのシナリオは以下:生態形質でTransgressive segregationが生じれば、新規ニッチの開拓が可能に。性的形質(モテ度を決める形質)や性的形質への好みでTransgressive segregationが生じれば、雑種と親種間での繁殖を抑制できる。すると、雑種種分化と、親種との共存が可能に。
交雑を減ずる進化:Reinforcement
交雑を減らすような進化(Reinforcement)が起これば、種は繁殖干渉による(局所)絶滅を免れるかもしれない。Reinforcementは、性的形質とその性的形質への好みを、近縁種間で分化させる。特に前者は繁殖形質置換を引き起こす。
Cascade reinforcement
Reinforcementは、相互作用する他種との同所分布域のみで働き、異所的分布域では働かない。Reinforcementが性的形質や性的形質への好みに大きな変化をもたらす場合、同所分布域と異所的分布域の間で性的形質や性的形質への好みが分化する。これが種分化をもたらす例が近年見つかっている (Hoskin et al. 2005 Nature など)。
分布への影響
強い繁殖干渉は種共存を妨げる・・・分布境界が明確に。Reinforcementが生じれば種共存が可能になり、分布境界が不明瞭に。Adaptive introgressionやtransgressive segregationは局所適応を促進し、分布域を広げる (Hovick and Whitney 2014 Ecol Lett).
分布境界に、安定的に雑種が生じ続けることがある(交雑帯)。交雑帯が維持されるメカニズムは大きく以下の二つ
1.Tension zoneタイプ:交雑個体は非適応的だが、親種の分布中心からの移動分散により分布境界域での交雑が維持される
2.Bounded superiorityタイプ:交雑個体が親種間の分布境界でのみ適応的なため、雑種集団が存続する
第三者への影響
交雑によって、新規表現型の出現も含め、機能形質の分布は大きく変わる。これに伴い、交雑相手以外の種との種間相互作用(食う-食われる、Host-parasiteなど)が変化しうる。この手の研究は非常に少ないが、以下は主要な研究例:木の交雑による植食者群集の変化(Nakamura et al 2010 Oikos など、総説:Wolinska et al 2009 Trends Parasitol);交雑個体が餌種に与える影響 (Rudman & Schluter 2016 Curr Biol)。
おわりに
研究目的の違いから、同じ現象に複数の名前がついています。生物保全や育種では、交雑にまつわる様々なデータが蓄積されています。これらを基礎研究に生かすことで交雑がどのような生態的・進化的インパクトをもつかより鮮明に分かってくるでしょう。進化学・生態学の乖離も問題かもしれません。
重ねて申し上げますが、もし「ここおかしい」「一緒に原稿を完成させたい」「こうゆうアイデアがあれば総説になりえる」と思ってくださる方がいましたらぜひ渥美(k.atsumi115<at>gmail.com)にご連絡ください!!お待ちしております。チャンスがあれば英語の総説にしたいと思っています。