プレスリリースとAltmetrics:その1「プレスリリース」

こんにちは、小泉です。

今回はタイトルのとおりプレスリリースとAltmetricsについて書こうと思います。

。。。が、いざ書いてみると長くなってしまったので「プレスリリース編」と「Altmetrics編(1週間後に掲載予定)」の2つに分けます。

 

プレスリリースをする理由

研究活動の多くは国のお金や企業などの助成金で行われているため、成果を還元するのは当然の義務です。還元の方法としては、報告書・学術論文だけでなく、一般の人々にも何らかの形で伝えることも大事だと考えています。これによって、研究活動を理解・支援してくれる人も増えると思います。さらに、地球温暖化や原発問題のような科学に基づく身近な問題を理解できる科学リテラシーも向上するでしょう。日本でも科学がより一般の人に身近なものになって欲しいという想いがあります。

私達が研究している生態学は、直接お金にならず世の中の役に立ちづらいという側面があります。逆に、自然界でみられる意外な仕組みや繋がり、生物の驚異的な生き方を発見できるなど、一般の人の興味も惹き付ける面白い科学という側面も強いです。なので、特に生態学では、面白い発見を多くの人に分かりやすく伝えるといった成果還元が重要だと考えています。

 

プレスリリースの方法

研究成果を広く伝える方法のひとつは、新聞やニュースなどマスメディアです。このための手段としてプレスリリースがあります。昔は、どういった研究がどういう経緯で新聞やニュースで紹介されるのか不思議でした。面白い研究成果がでたら目立つので新聞記者などが駆けつけてニュースになるものだと思っていました。確かにこのような例もありますが、実際は研究者が自らプレスリリースを行うことでメディアにアピールしていることが大半でした。この辺りの仕組みや過程は初めてプレスリリースを行ったニホンザリガニの研究で学びました。その経緯などは小泉(2013)で簡単に紹介しています。

プレスリリースは各大学・研究機関の広報課が行います。例えば、北大では、まず雛形のテンプレートに従って、研究者が2−3ページの記事を書きます。1枚目は研究成果の概要で、要点が一目で分かるように工夫されています。例えば、タイトルの下に、1−2行の短い研究成果・ポイントを3つ挙げます。これで全体が分かるようにします。2−3枚目では1枚目の概要をより詳細に説明します。そしてこのプレスリリース記事を広報課にチェックしてもらい公表となります。一方、英文プレスリリースは、国際広報課が日本語のプレスリリース記事の中から特に興味深いものを取り上げます。そして、日本語記事を参考に国際広報課が下書きをつくり、研究者と2−3回の打ち合わせ(推敲)をして完成版となります。北大国際広報課の仕事の質の高さはこちらでも述べたとおりです。

 

北大プレスリリース(日本語版)

北大プレスリリース(英語版)

 

研究者が作成したプレスリリースは、広報課が新聞社やテレビ局など数多くのメディアに一斉配信してくれます。幾つかの(注目度の高い)Journalでは報道解禁日(Embargo)が設定されており、その日時以降じゃないと報道できません。通常は、報道解禁日の1−2週間前にプレスリリース記事をメディアに配信して、その期間に取材を受けたりします。ニュースは鮮度が命らしく、時間が経つと急速に価値が下がっていくようです。なので、報道解禁日を設けて他の新聞社が出し抜いたりしないようにしています(STAP細胞ではあるテレビ局がEnbargoを破って先に報道し、慌てた他の会社も追随したようですね。ヒドいなぁ)。ただ、多くの生態学の学術誌はEnbargoが決まっていません。生態学や進化学は産業に結びつくわけでもなく、速報性はそれほど重要ではないですからね。なので、論文がいつ出版されるか分からず、大体、出版後にメディアに流します。

最後に研究者が作成したプレスリリースをメディアが興味を持ってくれたら初めて新聞やニュースで取り上げられます。記者が興味を持ってくれても、上層部で却下になることもあります。プレスリリースを出した後は、電話がかかってくるかどうかドキドキです(笑)大体取り上げて貰う時は当日か翌日に問い合わせが入ります。

 

メディアに取り上げてもらうためには、いかに分かりやすくて面白いプレスリリース原稿を作るかにかかっています。一目で分かるイラストなどは非常に重要になります。下のイラストはヤツメウナギ研究のプレスリリースに使ったものです(単純に自分達の研究を伝えるだけでなく、ヤツメウナギってそもそもこんなに面白い生き物なんだぞ、という部分も伝えたかった)。

 

ヤツメウナギプレスリリースイラスト

専門外の人にも興味を持ってもらうのにイラストは有効です。このイラストはうちの奥さんに作ってもらいました (^^)

 

多くの新聞社は事前に記事を確認させてくれるので誤った記述がないかチェックすることができます。以前は(?)、記者が自分の都合の良いように解釈して記事を書くので危険だ、と言われていましたが、最近は(?)記者も間違いの記事を載せると評価が下がるので、慎重に記事にしてくれているようです。ある新聞記者の方から『研究者も付き合う記者を選ばないとダメだ』と強く言われました。確かにいろんなタイプの人がいました。

ちなみに、私はこれまでプレスリリースを8回行い、幸いほぼ全てニュースになっています。唯一取り上げて貰えなかったのは、ニジマスの越冬集合だけです。個人的には相当反響があるだろうと思っていたのですが。。。残念!

 

どのような論文をプレスリリースにすべきか

これはよく考えるところです。個人的には、一般に興味を持って貰える研究 + それなりに良い雑誌(Journal)に掲載された研究、だと思っていました。良い研究でも一般の人にとって難しかったり、興味がなければ取り上げて貰えないので最初の条件は自明だと思います。良い雑誌に掲載、というのは専門分野でどれくらいスゴイ研究なのかということを担保するものです。良い雑誌に載る研究の方がより厳密に事象を精査されているし、議論も慎重に行われています。

ただ、それほど定評のある雑誌ではなくても、通常の査読付きの論文は一定の基準をクリアして、ちゃんと行われた研究です。それに、専門家の興味と一般市民の興味が必ずしも一致するわけではありません。一般市民にとってはどんなJournalに掲載されたかはほぼ興味がないと思います(言われても分からない)。

例えば、夏に枯れた支流に1万匹の魚が戻ってきたという研究は、1本の小さな川でたまたま見つけた1回限りのイベントです(なので、Full paperというボリュームのある論文ではなく、Short reportという短い論文として発表しています)。移動能力が低そうなフクドジョウが大量に遡上してたのはちょっとした驚きでしたが、幾つかの魚で越冬大集合が報告されていたので、魚類学における新規性はそれほど高くないかもしれません。ただ、データは少ないですが、この小さな川に1万匹ほどの魚が短期間で遡上してきたのは紛れもない事実です。

pressrelease_rainbowtrout1

干上がった支流。人工的に直線化されて水深も20㎝ほどしかない川ですが、1㎞という短い区間に10,000匹を超える魚が戻ってきました。

 

この研究はもともとプレスリリースするつもりはありませんでした。しかし、自分では面白い(かつ重要)と思っていたニジマスの越冬大集合がどこも取り上げてくれなかったので、関連した論文を報道することによってニジマス研究も着目されるかと思ってプレスリリースを行いました。実際、完全に干上がってしまった川に大量の魚が戻ってきたのは、調査をしていても少なからず驚きだったので、一般の人も興味を持ってくれる人がいるかな、と。

rainbowaggregation

こちらは違う支流で見つかった、ニジマスの越冬大集合。衝撃的でした。

 

幸い、幾つかのニュースがこの研究を取り上げてくれました(結局、ニジマスには注目がいきませんでしたが)。そこで意外だったのが、知り合いの(超優秀な)研究者の奥さんが「小泉さん、なんかすごい発見したそうだよ。1万匹の魚が戻ってくるんだって!」ってダンナに言ったそうです(あなたのダンナの方がよっぽどすごいぞ!笑)。

プレスリリースをすると知らないところで意外な人も見てくれているし、一般の人にとっては”すごい発見”って思ってもらえたりするんだな、と。

そういえば、昔よく行ってた調査地の定食屋さんから「テレビ見ましたよ。実は北大の先生だったんですね〜」と声をかけてもらいました(サービスはしてくれませんでしたが 笑)。1人でも多くの人に生き物の面白さを知ってもらえたら、ほんの少し世の中が良くなる気がします (^^)

 

こういった経験を踏まえると、逆にプレスリリースをすることのデメリットって何だろう?と考えるようになりました。もし取り上げて貰えなかったら、広報の方々に余計な仕事を押し付けてしまった、と少し申し訳ない気持ちになります。ただ、それ以外に大きな実害はないのかな、と。それよりは少しでも興味を持ってくれる人がいれば、プレスリリースしてもいいんじゃないか、と考えるようになりました。

なので、もちろん良い論文を出すことが一番ですが、必ずしも良い雑誌に掲載されなくても、一般の人が興味を持ってくれそうであれば積極的にプレスリリースしてもいいんじゃないかな、と考えを変えつつあります。

 

というわけで、今後も野生動物達の面白い生態を伝えていければと思います。

 

続きの『プレスリリースとAltmetrics:その2「Altmetrics」』は1週間後に掲載します!

 

小泉

 

P. S. ちなみにT大の知人がある研究をプレスリリースしようとしたら、Impact factor(雑誌のレベルを測る指標)が低いからダメ、と却下されたそうです (^^;)  さすが天下のT大!あと新聞記者達も意外にImpact factorを気にしています。結構聞かれました。