僕らの調査地は町~urban field worker 奮闘記①~

しばらくぶりの内田です。早いものでD3になってしまいました。

先日、約2ヶ月続いたフィールドから帰ってまいりました。札幌を発った時にはまだ雪が残っていましたが、いつの間にか入道雲ができ始める季節になってしまいました。

春爛漫の十勝と日高山脈

春爛漫の十勝と日高山脈

この2ヶ月、3時半起きのフィールドワーク、某雑誌への寄稿依頼、国際誌の査読依頼、論文修正、夏の渡米準備などなど、盛りだくさんの日々でした。そうです、今年の夏は一ヶ月弱アメリカに滞在することが決まりました。リス・哺乳類研究の最先端に触れて自分の研究のさらなる発展を図るために、砂漠地帯にある大学アリゾナ大学John Koprowski氏の研究室にお邪魔させてもらいます。
帰ってきたら、現地でのことについて一筆入れます。

晴れた春のある日

晴れた春のある日

 

今回のブログでは、フィールドワークについて書きます。と言っても、ご想像のような大自然の試練に強靭な肉体を持って挑むフィールドワークではありません。都市を舞台にした野生動物研究者の苦労話です。

いわゆるマトリックスを移動しまくる都市のリス

いわゆるマトリックスを移動しまくる都市のリス

 

ご存知の通り、私の研究の舞台は都市の公園と郊外の森林です。そこに生きるエゾリスを材料に、野生動物の都市適応・順応プロセス、人馴れプロセスについて研究しています。年間3−4ヶ月はフィールドに滞在して調査を行なっています。こういうと、失礼な研究室の連中は「どうせ公園の調査でしょ〜」、「公園の散歩大変だね〜」、「公園って電波通じますか?」など、好き勝手バカにしてくれます。まったく〜

昼時の園児の側を歩く子リス

昼時の園児の側を歩く子リス

 

確かに、大自然を舞台にしたフィールドワークのような厳しさはありません。しかし、都市の調査はこれまであまり生態学者が経験してこなかった過酷さがあります。

 

その過酷さとは、“人との戦い”です。

 

私たちは、罠を設置してエゾリスを捕獲して、耳標・首輪をつけることで、行動観察や生存率の推定などを行っています。現在までに都市郊外合わせて約140匹のリスを識別して来ました。

我々の研究に個体識別は不可欠です。

罠の設置には、北海道庁と帯広市の許可を得ています。

罠の設置には、北海道庁と帯広市の許可を得ています。

 

生態学では至極当たり前の方法に対する市民の声は様々です。多くの人は無関心、もしくは理解を示してくれます。我々の研究に賛同して積極的に応援してくれる人もいます。一方で一部の人からは、市民のアイドルたるリスを捕獲して標識をつけるとはなんたる愚行、とばかりに調査を妨害されることがあります。都市のリスは毎日市民から餌をもらい大事に扱われています。市民の人の中には、毎日の餌付けが生き甲斐という人もいます。そのため、調査を快く思わない人から、あらゆる罵声や妨害をお見舞いされることも少なくありません。これに対して我々は、一人一人懇切丁寧に説明をして理解してもらえるように努めます。1時間でも2時間でも、とにかく不信感を払拭できるよう努力します。研究意義に加えて、大学の動物倫理規程に則って操作していること、同庁や帯広市から許可を得ていることもしっかりと説明します。しかし、こうした人たちが抱く不信感の多くは、私たちの身元が分からないこと、捕獲のせいで公園からリスがいなくなるのではないかという心配、リスに対する首輪の影響にあるように感じます。また、こうした調査・研究の成果が見えない点も研究に対する不信感に繋がっているようです。そのため、今年度から私たちは、自己紹介や研究成果を書いたビラを配り始めました。なるべく相手の不信感の根源を探り、相手の感情や心情を汲み取りながら対応するしかありません。もちろんその度に、こちらのMPがどんどん失われていきます。1時間で1日分のMPを使用してしまうこともあります。しかし、なんとか研究を遂行する必要があるので、様々な想いを胸に耐え忍ぶ毎日です。毎日発狂しそうですっっっ

 

でも、最近ではようやく努力が功を結び出しました。例えば、私たちの存在は帯広では多くの人の知るところにあります。

最近では調査を手伝ってくれることも!

市民のおじさんたちと。最近では調査を手伝ってくれるおじさんも!

 

私の博物館講演を聞いてくれてブログで紹介してくれる人もいました。

さらに、これまで反発していた人が逆に調査を手伝ってくれたり、さらには我々を攻撃から守ってくれるガーディアンになってくれたりと、少しずつ状況が変わって来ました。そのおかげで徐々に、調査がやり易くなりました。ほんと、嬉しい!ほんと、地道な努力でした。。。

子リスを見ると疲れが吹っ飛びます

子リスを見ると疲れが吹っ飛びます

都市を舞台にした研究は、いい意味でも悪い意味でも研究者と市民と生物の距離が近い状況にあります。だからこそ、研究者が一般の人を意識・考慮しながら研究を行う必要があります。その方法は様々にありますが、今回ご紹介した方法もその一つかもしれません。非効率で泥臭いフィールドワークです。でも、こんなにも人と野生動物が密接に関わり合いながら生きる環境は、双方の興味深い関係性を研究する上では最高の舞台です。私は今後もこうして泥臭く研究していくんだろうなと感じています。

人のすぐそばに暮らす

人のすぐそばに暮らす

幸い私は人が好きだし、今後の研究者は市民と上手く関わりながら研究活動をして行くことも不可欠だと考えているのでいい訓練だと思っています。私たちが調査をする都市、そこに住むエゾリスを取り巻く環境はなかなか面白いです。

あ〜長々と真面目なことを書いてしまった〜ww次はもっと写真とかふんだんに使った楽しいブログを書こうかな〜

たまに子リスが落ちています。そっとしておきましょう

たまに子リスが落ちています。そっとしておきましょう

内田