国際野生動物管理学会の参加レポート

こんにちは、小泉です。

ちょっと遅くなりましたがIWMC(5th International Wildlife Management Congress)の参加レポートです。

以前にお知らせでも書きましたが、IWMCは札幌コンベンションセンターで開かれた野生動物管理に関する国際会議です。札幌市内ということもあり気軽に通えました。普通の学会は泊まりがけで行くので学会どっぷりになりますが、今回は大学業務の合間に行ったり、飲み会も厳選したものだけ参加したりできました。地元の学会は独自のメリット・デメリットがありますが、まぁメリットの部分だけ享受すればいいでしょう (^.^)

学会への参加の仕方は学生・ポスドクの頃と比べて大分変わってきました。学生時代は主に自分の研究分野に近い話を聞きにいっていました(+分野関わらず活躍している人達の話)。でも、今は自分の専門と全く違うところに行くことが多いですね。自分の分野はある程度分かってくるので(研究者も研究内容も)特に聞く必要はなく、今後、新しい研究が展開できそうな自分の知らない分野を聞きにいく傾向が強くなりました。

ということで、今回のIWMCではEducationとHuman Dimensionの話を中心に聞きました。

Educationではかなり面白い話がありました。Art schoolの学生と大学のBiologyを専攻している学生を集めて、Workshopを開催して、Science museumでアウトプットをする、という取り組みです。Oyster(牡蠣)をテーマにフィールド実習に出て、牡蠣の生活史や生態系における役割、温暖化によってどのような影響を受けるか、などを学びます。ここで学んだことを一般市民向けにアウトプットするのですが、その方法は自然史博物館と芸術の展覧会を合わせたようなものです(すくなくとも理想としては)。

ワークショップでは分布調査や顕微鏡観察など生物学的手法だけでなく、実物を見ずに手で触った感覚だけでスケッチをするBlind paintingなど美術の訓練で使う手法なども取り入れています。自分の分野では当たり前のことも、全く違うバックグラウンドが異なる学生達にとっては非常に新鮮なことでしょう。

発表者は「これからの問題解決には、同じ分野内でのCritical thinkingでは不十分で、全く違う分野間での”Creative thinking”が必要だ」と主張していました。サイエンスとアートは似ている部分も多いし、何か一緒にできたら面白いんだろうな〜、とは前々から思っていましたが、このように実際の取り組みを聞いて感心しました。

確かに面白いかもしれないけどサイエンスじゃねーじゃん。という人もいるでしょうが、このような取り組みでもちゃんとデータを取って解析して原著論文に書いていたりするんですよねー。ただ、ここでの私の興味は論文を書くことではなく、どうやったら日本人全体の自然への意識を高められるのだろう?ということですが。

次に、Human Dimension。聞いたことがない人も多いと思いますが、正式名称(?)はHuman Dimensions of Wildlife、日本語では「(野生動物管理における)人間事象」と訳されたりします。まじめに保全生態学や野生動物管理学を研究している人は必ず行き着くと思いますが、要は「生物の研究だけしていても必ずしも保全・管理はできない。むしろ保全・管理をするためには影響を与えている人間側を動かさないと駄目だ」という考えのもとに出来た学問だと思います。

例えば、トラやライオンなどは絶滅の危機に瀕しており、たくさんの人が保護のために多くの資金を投資します。しかし、一部の地元の人にとってはトラやライオンは自分達を襲ってくる恐怖の対象でしかありません。保全生態学は、どの生息地をどのように改善すれば個体群が回復するか、といった疑問には答えてくれるでしょう。しかし、政府や世論がそれを行うだけの資金を出して、また命の危険さえある地元住民がそのプランを素直に受け入れるでしょうか。このように野生生物の保護や管理には人間事象に関わる非常に複雑な問題が絡んできます。

Human Dimensionは人間を中心としているだけに、政治、経済、倫理、心理など幅広い分野をまたいでいます。昔から関心はあったのですが、日本では普及しておらず、また多様な分野を含むがゆえ捉えどころがなく勉強できずにいました。今回はさすが国際野生動物管理学会議、その分野の第一人者が集まっていました。

特に最近、日本で優秀な若手Human Dimensionists (?)が何人か出てきているのですが、彼らが日本における事例研究をとても分かりやすく紹介してくれました(その後、発表者の一人がEZOゼミに来てくれてさらに掘り下げることができました)。研究と実践と教育をうまく融合していて、ほんと素晴らしいな、と。これから日本におけるHuman Dimension研究は注目です!

まだ話したいことはいろいろとありますが、長くなり過ぎても読むのが大変でしょうから、この辺りで。

えっ、自分の発表?無難に終わりました。特に言うことはないです、はい。