油田君の博士論文の最後の1章がようやく論文になりました!時間はかかりましたが、それだけ渾身の作になっています!
Yuta T, Nomi D, Ihle M and Koizumi I (2018) Simulated hatching failure predicts female plasticity in extra-pair behavior over successive broods. Behavioral Ecology, 29, 1264-1270
『性的不妊と認識されたオスは浮気をされる』というセンセーショナルな研究です。
これは着想から面白い研究でした。フィールド調査中に得られたある1ペアのデータがヒントを与えてくれました。
そのペアは最初に繁殖を行った時に卵のまま時が過ぎ、結局10個の卵がひとつも孵化しませんでした。何かの原因で上手く受精できなかったのですね。そこでこの卵は放棄して、すぐ次に新しい巣で2回目の繁殖を行いました。幸い、ここでは10個の卵が全て孵化して雛が巣立ちました。
この時は特に気にしていませんでしたが、フィールド調査が終わってしばらくしてDNA実験をしてみて、何とビックリ!
2回目繁殖の子どもは10羽全てが浮気の子どもだったのです!!!
ここで油田君が「最初の繁殖時に、つがいオスの妊性が低い、あるいは遺伝的な相性が悪いと判断して、メスが他のオスと交尾したのでは?」と仮説を立て、「1回目繁殖の時に偽卵に置き換えて孵化させなくしたら、2回目繁殖ではつがい外父性率(*1)が上がるのではないか?」と予測しました。
*注1:油田君は真面目なので浮気という言葉を使うのを嫌います
一夫一妻の動物のメスが浮気する理由についてこれまで様々な仮説が立てられていましたが、上記は「繁殖保障仮説」と言われています。これはかなりもっともらしい仮説ですが、しっかりと証明するのが難しくあまり実証例がありませんでした。これまでは、より良いオスとの子孫を残すために浮気をするという「優良遺伝子仮説」が中心に研究されてきました。今回行った偽卵に置き換えて次の繁殖の浮気率を調べるという手法は、1シーズンに複数回の繁殖を行うシジュウカラならではのとてもユニークなアプローチでした。
当時の同じ研究室仲間の知り合いに人形職人がいるということで偽卵を作ってもらいました。また、タイミングの良いことに後に油田君のベストパートナーとなる乃美氏が修士課程に入ってきたので、翌シーズンにかなり気合いの入れた野外操作実験を行いました。100日を超えるフィールドワークと、日の浴びないところでこまごまとしたDNA実験を終えて。。。
ワクワク、ドキドキしながら結果をみて、、、再度ビックリ。
まさに予測どおり! 偽卵に置き換えた実験区では何もしなかった対照区と比べて、2回目繁殖時のつがい外父性率が2倍近く(*2)になっていました。
*注2 論文にした時には査読者にいろいろ指摘されてデータを減らしてしまったので差が1.4倍程度になってしまいました。図の濃い丸とラインが平均値(統計モデルから推定された値)。バックグラウンドのグレーがペアごとの実測値。1回目と2回目の両方のデータが得られたペアだけに絞ってしまいました。1回目だけ、あるいは2回目だけデータが取れたペアも多く、これらを全部含めて解析するとより明瞭な結果でした。2回目だけデータが取れたものの中には、この研究の原点となったような、子どもが全て浮気によるものもありました。
これはほんと興奮しましたね〜。「キタ~~~!!!」って感じですね。生態学の研究をしてて一番嬉しい瞬間です。
ここから論文になるまではいろいろありましたが、最終的に行動生態学のトップジャーナルに掲載されたので良かったです。
研究の発案から野外操作の実験デザイン、フィールドデータにDNA実験、統計解析と論文執筆。ほぼ全て油田君が独力で行った研究なので達成感も大きいと思います(*3)。修士から新しいフィールドを開拓して、博士の研究でこれくらいできれば素晴らしいですね。これで一流研究者の仲間入り(入り口?)ですね (^^)v
*注3 本人は「ようやく。。。」「ほっとした。。。」という感想でしたが後からじわじわくると思います。
この研究はかねてから「一般市民にも受けるだろうね〜」と話をしていたのでプレスリリースをしました。ただ、油田君の真面目キャラと、不妊で悩んでいる人も多いこのご時世、あんまりウケ狙いの内容にしない方がよいだろう、ということであまり擬人化せずに学術的な部分を重視して書きました。
プレスリリース(日本語)「メスの浮気は確実な受精のため ~シジュウカラ したたかな戦略~」
プレスリリース(英語)Becoming promiscuous to ensure reproduction
それもあってか、国内外のニュースで取り上げてもらったものの(例えば、こちらやこちら)、ヤツメの時などと比べて思った程の反響ではありませんでした。
まぁこっちは専門の研究者がいっぱい引用してくれると期待できますけどね (^^)
というわけで、長くなりましたが久々の論文報告でした。
プレスリリースに興味がある方はこちらの記事も是非!