研究テーマ

―バイオサーファクタント(Biosurfactant)―

  1. バイオサーファクタントについての研究内容(このページ)
  2. 非リボソーム型ペプチド合成酵素 NRPS (別のページ)

静岡県相良油田からこれまでで最も高い界面活性を有する環状リポペプチド型バイオサーファクタント(アルスロファクチン;以下 AF)を発見しました[7]. AF はアミノ酸11残基(うちD型7残基)からなるペプチド部分と鎖長8から12のヒドロキシ脂肪酸部分が、アミド結合およびエステル結合で環状化した構造を有していました. 化学修飾法を用いて AF の構造と活性の相関関係について調べ、最適な構造を明らかにしました[34]. 一方、AF の合成遺伝子群(約 40 kb)全長をクローニングし、遺伝子構造を調べたところ、組成アミノ酸を逐次活性化して連結する非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS:non-ribosomal peptide synthetase)の一種であることがわかりました. しかしその構造はアミノ酸の D/L 変換を触媒するエピメラーゼドメイン遺伝子がないかわりに、チオエステラーゼドメイン遺伝子が2つあるという従来にはない特異なものでした[60]. 本遺伝子破壊株の諸特性を調べたところ、AF の合成活性は完全に失われ、その一方でバイオフィルム形成能力が増進していました. 近年、環境微生物の多くは固体表面上でバイオフィルムと呼ばれる高次構造体を形成してさまざまなストレスに対抗していることが指摘されていて、微生物を利用した環境修復技術においてもバイオフィルムのコントロールは重要な課題となっています. 私たちの報告はバイオサーファクタントとバイオフィルム形成との関係について定量的に評価した最初の例となりました.

一方、タイ王国チュラロンコン大学との共同研究により、タイ発酵食品中から3種類のバイオサーファクタントを同時に生産する耐塩性細菌 Bacillus subtilis BBK-1 や、全く新しいタイプのバイオサーファクタントを生産する Bacillus licheniformis F2.2などを発見しました [52,57,78].

Arthrofactin の一次構造と立体構造

図1.最強のリポペプチド型バイオサーファクタント:"Arthrofactin" の一次構造と NMR 解析結果に基づく立体構造推定図.
研究協力:大阪大学 蛋白質研究所 池上貴久准教授

Arthrofactin 生合成遺伝子クラスターとドメイン構造

図2.Arthrofactin 生合成遺伝子クラスター(約 40 kb)とそのドメイン構造.

それぞれの組成アミノ酸ごとに縮合ドメイン(C)、活性化ドメイン(A)、基質結合ドメイン(T)から構成されるモジュールが単位となっています. 本遺伝子群の特徴は D/L アミノ酸の変換を触媒するラセマーゼドメインを含まないことと、C末端部分に2つのチオエステラーゼ活性部分を持つことです[60,73]. 最近、一方のチオエステラーゼだけでも、ある程度の合成反応が進行することがわかりました [81].

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