研究テーマ
―油田細菌―
これまでにさまざまな油田環境から特殊な能力を有する細菌類を分離し、その代謝機構について生化学的および分子生物学的解析を試みました. その結果、微生物環境修復技術の基盤となる基礎的知見をいくつか得ることができました.
一目でわかる特殊油田細菌アルカン生産/分解菌 Oleomonas sagaranensis HD-1
静岡県相良油田は陸性油田であり、産出する原油の主成分は中鎖アルカンです. この点、中近東の原油(多環式炭化水素類、アスファルテン、レジンを多く含む)とは大きく異なります. 本油田からこれまでにない新属新種の Oleomonas sagaranensis HD-1 を分離しました [6, 55].
14CO2を用いた実験から、本菌は独立栄養的に生育可能であり、その細胞内に14C-アルカンを生産することを確認しました. 細胞破砕液を用いた実験結果からは、本菌は脱炭酸あるいは脱カルボニル反応により脂肪酸および脂肪族アルデヒドからアルカンを生成できることが示唆されました [17]. 以上のことから、本菌が相良油田の生成因の可能性があるのではないかと考えています [総1].
図. Oleomonas sagaranensis HD-1
寒天培地上で形成されたコロニーで観察される光の回折(左)
電子顕微鏡写真(右)
低温細菌 Shewanella sp. SIB1
高度好熱性細菌 Geobacillus thermoleovorans B23
カナダ寒冷地帯のオイルサンドおよび新潟県渋柿集油所からは 0℃でも元気に生育する低温細菌 Arthrobacter 属 CAB1 および Shewanella 属 SIB1 を発見しました [35]. 両株は 4℃の低温環境で芳香族化合物カテコールを分解することができます. 興味深いことに、SIB1 においてカテコール分解活性は低温でのみ誘導的に発現していました.
一方、新潟県南阿賀油田(地下 2150 m, 106℃)から 80℃で生育する高度好熱性細菌 Geobacillus thermoleovorans B23を発見しました [41, 42]. 本菌は常温菌では分解できない固形の長鎖アルカン(C40)を大気圧下 70℃で完全分解できました. またアルカンによって顕著に誘導されるアルカン代謝系酵素群の中に、真核生物でしか報告例のないアシル CoA オキシダーゼ活性が検出されました. 一連の活性酸素除去酵素群も同様に誘導されたことから、B23 は祖先型のアルカン分解機構を有していて、真核生物であるアルカン資化酵母が持つ小器官ペルオキシゾームの起源なのかもしれないと考えています.
図. 低温細菌 Arthrobacter. sp. CAB1
電子顕微鏡写真(左)
試料採取現場 Ft. McMurray, Alberta, Canada(右)
0℃でも生育可能で、芳香族化合物を分解します.
図. 高度好熱性細菌 Geobacillus thermoleovorans B23
電子顕微鏡写真(左)
試料採取現場 帝国石油(株)秋田県八橋油田(右)
多環式芳香族化合物分解細菌
Xanthobacter polyaromaticivorans 127W
炭化水素類の微生物分解において酸素は極めて重要な因子で、酸素の安価な供給法が環境修復現場で問題となっています. 酸素を利用しない嫌気的分解菌も報告されていますが、分解活性が低い上に酸素耐性が低いので取扱いが難しいという問題があります.
福井県の石油備蓄タンクから分離した新種の Xanthobacter polyaromaticivorans 127W は、極低酸素環境下(0.2 ppm)においても2環あるいは3環式の芳香族炭化水素類を分解できることがわかりました. その初期酸化酵素の遺伝子を取得しアミノ酸配列に基づく系統解析を行ったところ、従来の2環式芳香族炭化水素群とは明らかに異なり、どちらかと言えば単環式芳香族炭化水素群と似ていました. 下流酸化酵素について生化学的に調べたところ、酸素に対する親和性は従来の酵素よりも3から5倍程度高いことがわかりました. 本菌は少ない酸素を有効利用できる炭化水素酸化分解系を有するので、先の問題解決に役立つのではないかと期待されます [61, 70, 74, 80].