研究テーマ
―環境ホルモン分解菌
(Environmental-hormone degrading bacteria)―
現在、プラスチックを柔らかくする可塑剤でもっともよく使われているのが、フタル酸エステル類です. 含量も高く、プラスチック製品の重量当たりで 10〜60% も含まれます. ところが、これだけ身近に存在するフタル酸エステル類は、女性ホルモンであるエストロゲンやアンドロジェンに影響を与える環境ホルモン様物質のひとつと言われています. その作用として、エストロゲン受容体に結合し、抗アンドロジェン活性を示すことなどが報告されています. フタル酸エステル類のうちでも特に、DEHP(diethylhexyl phthalate、図1)は環境ホルモンとしての活性が高く、難分解性化合物のひとつであることが知られています. そこで私達は DEHP を分解する微生物について研究を進めています.
図1.DEHP の構造
微生物は細胞構造が単純であるため環境適応能力に優れた生物群であり、多様な代謝活性を持ちます. よってフタル酸エステルで汚染されている地域には、それを利用(分解)できる微生物がいる可能性が高いのです. そこで私達は工業地帯の河川底泥の微生物を採取して、DEHP の分解試験を行いました. その結果、5株に高い分解活性が認められました. そのうちで、活性が最も高い C3 株の分解活性を示します(図2).
図2.C3 株による DEHP 分解の経時変化
図3は C3 株の走査型電子顕微鏡観察の結果です. 白いバーは 2μm の長さを示します. この細菌は 30℃ 12時間 で 100 ppm の DEHP を完全分解します. DEHP 以外にも BBP(butylbenzyl phthalate)や DEP(diethyl phthalate)も分解することができます. 生理学試験と分子系統解析の結果から、これらの細菌は Gordonia 属細菌であることがわかりました.
図3.DEHP 分解細菌 Gordonia sp. C3 の電子顕微鏡観察