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Research
Under construction
発芽した場所から動けない植物は
どのようにその土壌環境に応答して生きているのでしょうか?
私たちは植物の環境応答のしくみを分子レベルで理解する基礎研究を通じて、
不良な土壌環境にも強い植物を作出することを目標としています。
地球上の多くの生物を支える植物。植物は土壌の無機元素を自分の栄養として吸収・利用し、光合成を行っています。私たち生物は、植物から食料やエネルギーを得るだけでなく、植物が吸収した無機元素を「ミネラル」として摂取しています。植物の土壌環境からの無機元素吸収の過程は「生命を支える根源的な過程」であるとともに「生物が環境と接する最前線」と捉えられると私たちは考えています。
現在、植物の生育に必須な元素は17種類知られています。植物は土壌中から生育に必要な無機元素を選択的に吸収し、毒性を持つ元素を排出する機構を進化の過程で発達させてきました。私たちは主に必須元素のひとつのホウ素に注目し、
- 「植物はどのように体内・体外の栄養状態を感知しているのか?」
- 「植物はどのようにミネラル輸送や代謝を制御しているのか?」
- 「植物のミネラル輸送のしくみは進化のなかでどのように発達してきたのか?」
という問いに取り組んでいます。そして、得られた分子レベルでの知見をもとに、無機栄養欠乏・過剰のストレスに耐性な植物の作出を試みています。
研究は「植物の環境応答の分子レベルでの解明」、「環境ストレス耐性植物の作出」の二つの柱をもって研究を進めています。
(1)植物の無機栄養を感知する分子機構の解明(個体)
植物が土壌中の無機元素の過不足や有害元素の存在をどのように感知しているのだろうか?
植物はさまざまな無機元素濃度の環境に応答するため、「植物による体内・体外環境の無機元素濃度の感知」した後、感知された環境に対して「輸送体タンパク質の発現の制御や代謝の制御」を起こすと考えられます。
これまで、後者の植物の環境応答反応は多く記述されてきましたが、その応答の第一段階として無機栄養環境を感知する「センサー分子」は植物ではほとんど明らかにされていません。そこで、必須無機元素のホウ素をひとつのモデル元素とし、ホウ素を感知する分子機構の解明を試みています。具体的には、ホウ素輸送体をコードするシロイヌナズナBOR1の5’非翻訳領域がホウ素濃度に依存した翻訳制御に必要であることを見出しており、これを実験材料としてホウ素を感知する分子の同定に取り組んでいます。
(2)植物の必須ミネラル利用効率・要求量を制御する遺伝子の同定(個体)
植物の必須ミネラルの要求量はどのように決定されているのだろうか?
植物の種間や品種間で必須ミネラルの要求量は異なることが知られています。しかし、その要求量を決定する遺伝子や違いを説明する分子機構は不明です。また、植物体内の必須ミネラル利用効率を制御する遺伝子を見つけることができれば、少ない肥料の投入で高生産する植物の作出につながり、省エネルギーで持続的な農業の実現に直結すると考えられます。
窒素・リン・ホウ素を対象として、「葉の栄養濃度は低いが高い生育量を示す」シロイヌナズナ変異株を単離し、植物の必須ミネラルの利用効率を向上させる新たな遺伝子資源の発掘を目指しています。
植物はホウ素をどのように利用しているのだろうか?
ホウ素/ホウ酸は植物のなかで、細胞壁ペクチン質のラムノガラクツロナンIIという特定の複雑な多糖間をエステル結合するのに使われています。しかし、小分子であるホウ酸が高分子の多糖間と特異的に共有結合を形成する分子機構、どこで?(ゴルジ体/細胞外)どのように?(酵素の存在/基質)はほとんど分かっていません。また、ホウ素欠乏による多糖間の結合の減少が、どうして細胞伸長の抑制を引き起こすのかも不明です。
ホウ素栄養依存的な生育パターンに変化を示すシロイヌナズナ変異株を用いて、植物のホウ素の代謝や細胞伸長を制御するしくみの解明に取り組んでいます。そして、必須栄養が成長の単なる「材料」となるだけでなく、成長を制御する(時には環境適応のために積極的に成長を止める)「シグナル」である可能性を検証したいと考えています。
(3)植物個体群レベルでの無機栄養吸収機構の多様性の記述 (個体群)
植物は必要な無機元素の選択的な吸収や有毒元素に対する防御機構を、進化の過程でどのように発達させてきたのだろうか?
植物個体群が生息してきた地域の土壌環境によって異なる進化が起こったと考えられます。土壌環境とそこに生息する個体群のもつ無機栄養輸送にかかわる遺伝子の多様性を調べることで、個体群の進化の理解に取り組みます。分子レベルでの現象を生命個体として、さらには個体集団、生態系での現象とのつながりをもった体系的な理解に挑戦したいと考えています。
(4)不良栄養環境ストレスに耐性な植物の作出
都市化による優良農地の減少・水資源の争奪・気候変動などに対して、農業生産性の増加を低エネルギー投入型の持続的な形態で、かつ栄養が不良な環境で達成することは今世紀の大きな課題です。この課題に対してストレス耐性の植物を作出は、最も効果的な手段であると考えられます。栄養不良環境耐性に関わる遺伝子資源を探索し、栄養ストレス耐作物の作出を行います。
これまでの研究で、モデル植物であるシロイヌナズナにおいてホウ素輸送体BOR1、BOR4の発現上昇によりホウ素欠乏耐性、ホウ素過剰耐性を付与することに世界で初めて成功しました(Miwa et al., 2006 Plant Journal, Miwa et al., 2007 Science)。ホウ素欠乏地帯は東南アジアなどの多雨地域で多く、ホウ素過剰地帯はトルコやオーストラリアなど半乾燥地に多く分布しており、ホウ素欠乏や過剰による農業生産被害が報告されています。この手法が実際の作物に応用できるかを調べるため、トマト、ナタネ、コムギに遺伝子を導入し、栄養ストレス耐性付与が可能かを調べます。