山崎研究室 | 山崎健一准教授             |研究内容         |研究室のメンバー        |

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環境ホルモン検出・定量化のための植物バイオセンサーの創製

は じ め に

内分泌撹乱化学物質、通称「環境ホルモン」は、環境中で分解されにくい性質を持つものが多く、長期にわたり環境中に存在することが知られている (Colborn et al, 1996) 。環境ホルモンの多くは核内受容体に作用し、生体内で行われている本来の内分泌系の情報伝達を撹乱するため、生物の機能、特に生殖機能に重大な影響を与えることが示唆されており、生態系への影響も危惧されている。そのため、広範囲にわたる環境ホルモンによる汚染状況の安価で簡便な調査法の開発や、除去技術の開発は緊急の課題となっている。しかし、現在広く用いられている GC-MS などを用いた有機化学的分析方法は高価な装置の購入費や人件費などにより、高コストな分析法となっており、広範囲にわたる調査には適していない。また、試料から有機溶媒を用いて環境ホルモンを抽出するという行程が必要であるため、抽出に用いる多量の有機溶媒自体による環境の二次汚染も懸念される。そこで、生物機能を利用した簡便かつ低コストで行える信頼度の高いバイオアッセイシステムの確立が待たれている。環境ホルモンとして、女性ホルモン活性を持つエストロゲン様物質が特に問題視されている。エストロゲンとの結合により活性化されるエストロゲン受容体は、核内受容体ファミリーに属しており、活性化により標的遺伝子の転写を活性化することが知られている (Gruber et al, 2002)。

 

 

食品・医薬品からのホルモンの摂取

ウシや羊などの家畜が、牧草に含まれるエストロゲン活性をもつ物質を大量に摂取することにより不妊になるといった報告がある(Adams, J. Anim. Sci., 1995)。さらには、離乳食の中に含まれる植物由来のエストロゲン活性物質の乳幼児に対する影響も懸念されていたり(Tuohy, J. paediatr. Child Health, 2003)、化粧品や医薬品の防腐剤に使用されている物質のなかにもエストロゲン活性を有するものが新たに報告されるなど(Darbre et al, J. Appl. Toxicol., 2003; Harvey et al, J. Appl. Toxicol., 2004; Routledge et al, Environ. Toxicol. Chem., 2004)、生活環境において、我々は知らず知らずのうちに、これらホルモン様物質を摂取している可能性が考えられる。予期せぬホルモン様物質の摂取による健康被害を未然に防ぐため、住環境や食環境および医療環境などから得られた大量のサンプル中からホルモン活性を持つものをスクリーニングする際に使用できるシステムが必要とされている。

 

 

女性ホルモンを見つける植物

ここでは、形質転換植物を用いて、環境ホルモンの中でも、特にエストロゲン活性を持つ物質を検出する方法について解説する。作製した形質転換植物には、次ページに記したような複数の遺伝子が組み込まれている。これらの遺伝子は、常時植物細胞内で発現されているキメラエストロゲン受容体とキメラ転写コアクチベーターの 2 種のエフェクターと、エフェクター間のエストロゲン依存的な相互作用によって転写が活性化されるレポーター遺伝子から構成されている。エストロゲン様物質による汚染が疑われる試料に曝露した際に生産される形質転換植物のレポーター遺伝子産物の活性を測定することで、試料中にエストロゲン活性を有する物質が含まれていることを判別できるシステムを構築した。


図1 DNA 組換えシロイヌナズナにおけるエストロゲン検出の原理

 

女性ホルモン検出の原理

植物内で強力に下流の遺伝子の転写を起こさせるプロモーターであるカリフラワーモザイクウィルス (CaMV ) 35S プロモーターにより、ヒトエストロゲン受容体 a リガンド結合部位 (hERa LBD) と大腸菌 LexA タンパク質 DNA 結合部位 (LexA DBD) を含むキメラエストロゲン受容体、およびヒト転写コアクチベーター TIF2 の核内受容体相互作用部位 (TIF2 NID) (Vogel et al., 1996) と 単純ヘルペスウィルス VP16 タンパク質の転写活性化領域 (VP16 AD) (Dalrymple et al., 1985 ) を含むキメラ転写コアクチベーターが形質転換シロイヌナズナ個体内で常時過剰に発現している。この2つのキメラタンパク質は、SV40 ウィルス由来T抗原の核移行シグナルを含んでおり、常時核内に局在している。核内において、キメラエストロゲン受容体はレポーター遺伝子である b-グルクロニダーゼ (GUS) 遺伝子の上流に位置するLexA タンパク質の標的配列 (OLexA) に結合している。エストロゲンがキメラエストロゲン受容体の hERa LBD 部分と結合することにより、 hERa LBD の立体構造の変化が起こり、キメラ転写コアクチベーターの TIF2 NID 部分との相互作用が起こる。この相互作用により TIF 2 NID に融合した VP16 ADの転写活性化シグナルが植物の転写装置に伝わり、エストロゲン依存的に GUS 遺伝子の転写および翻訳が引き起こされる。形質転換植物における GUS タンパク質の酵素活性を測定することでエストロゲンを検出することができる。

図2 DNA 組換えシロイヌナズナを用いたエストロゲン検出法

 



図3 ヒトエストロゲンを検出したDNA 組換えシロイヌナズナ

 



図4 DNA 組換え植物による環境ホルモン検出の将来像

 


研究発表


女性ホルモンを見つける植物, 東條卓人, 津田賢一, 和田朋子, 山崎健一, 廃棄物学会誌, 15(5): 247-253 (2004).

Tojo, T., Tsuda, K., Wada, T. and Yamazaki, K.,: A simple and extremely sensitive system for detecting estrogenic activity using transgenic Arabidopsis thaliana. Ecotxicology and Environmental Safety, 64: 106-114, (2006).

Takahashi, Y., Tojo, T., Nagahora, S. and Yamazaki, K.,: Direct Determination of Estrogenic and Antiestrogenic Activities Using an Enhanced Plant Two-Hybrid System. J Agric Food Chem, 55(8): 2923-2929, (2007).


環境分子生物学分野 | 生物圏科学専攻 | 地球環境科学研究院 |      北海道大学    

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