1. 環境汚染化学物質(内分泌撹乱因子を含む)の生体影響と影響評価法の構築
化学工学の発展により、人工の化学物質の種類は年々増加しており、毎日約1万を越える化学物質が新たに登録されています。これまで化学物質による生体影響は、毒性学的観点から研究されてきました。しかし、最近、環境ホルモンと呼ばれる微量の化学物質による生体影響が報告され、これまでの考えでは対策が立てられなくなってきています。環境ホルモンは正式には、外因性内分泌撹乱化学物質と呼ばれる化学物質の総称です。その定義については統一的な見解は得られておりませんが、これまで主に女性ホルモンあるいは男性ホルモンの作用に影響を与える物質として研究が進められています。
我々の研究室では、これらの環境ホルモン様作用を持つ化学物質の微量暴露による生体影響を評価する方法として、次世代への影響という観点から生体の分化と発生に着目し、神経成長因子を添加すると神経様細胞に分化するPC12細胞を用いて、化学物質の分化に対する影響を見ることを試みています。写真1は神経成長因子の作用により伸展したニューロン様線維がわずか10
ng/mlのビスフェノールAの添加によりその伸展が抑制されている様子を示しています。また、生体の発生分化段階で必須であるアポトーシス(プログラムされた細胞死)を指標にした評価方法も考えています。アポトーシスを起こした細胞のDNAはラダー状になるのですが、写真2は船底塗布剤であるトリブチルスズが極微量の暴露により無血清培地により細胞に誘導したアポトーシスが抑制され、その大量暴露でアポトーシスを促進する二つの作用をもつことを示しています。これらの結果から、ここに示した化学物質には低濃度暴露でいわゆる性ホルモン撹乱以外の作用もあることが示唆されました。今後、この評価系の完全な確立を目指し、多くの化学物質の多様な生体影響を再検討する必要があることが考えられました。これらの研究は山ノ下博士および修士修了者の青木未保さん,関 綾香さん,青木健太郎さん,江川麻里さんのがんばりにより大きく進展しました.
写真1 神経成長因子添加で伸展した線維(左)が最終濃度100 ng/mlのビスフェノールAの添加で抑制されている(右)。
写真2 FBS(ー)処理 で起こしたアポトーシスが最終濃度1 pg/mlのトリブチルスズの添加で抑制され10 ng/mlノニルフェノール添加により増強している
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