3. 生体必須微量元素である銅および亜鉛の代謝と生体機能との関わり


 銅や亜鉛は生体にとって必須な重金属です。ことに銅は必須である一方、その過剰な摂取あるいはその欠乏が生体に大きな障害を与える等、微妙な細胞内のバランスが要求されている元素です。
 銅の生体内代謝機構の解明のために、まず、これまで困難であるとされていた銅メタロチオネインの精製法を確立し、ついで、細胞内で銅代謝に深く関与していることが予想されるメタロチオネインとの関係を研究するため、確立した精製法および銅結合メタロチオネインが紫外線照射により蛍光を発する特性(写真参照)を応用し、遺伝性銅代謝異常症ウィルソン病モデルラット(肝臓に銅の大量蓄積)およびメンケス病モデルマウス(肝臓に銅が殆ど欠如)を用い、組織中での銅メタロチオネインの分布と代謝過程の研究を進めています。その結果、銅メタロチオネインがライソゾームに局在し、ライソゾームで代謝されたメタロチオネインから遊離した銅が再び同じ部位でメタロチオネインを誘導生合成していることを見いだしました。それに加え、蓄積された銅メタロチオネインの作用として銅メタロチオネインがDNA損傷を引き起こす可能性のあること、様々な生理作用が着目されている一酸化窒素とメタロチオネインが反応し、そのメタロチオネインに結合した一酸化窒素が銅により放出される可能性があること、また銅の同族元素の投与により銅メタロチオネインの組織内分布が変動すること等、新しい知見が次々とみつかり研究の枝が広がってきています。
 また、2種の遺伝性銅代謝異常症モデル動物の腎臓内において銅メタロチオネインの分布が異なっていました。その違いの起きる機構を明らかにするために、近年発見された2種の銅輸送蛋白質 P-type ATPase(この遺伝子の異常が遺伝性銅代謝異常症発症の原因とされています)に着目し、P-type ATPaseと銅メタロチオネインの関連性に関する共同研究により新しい輸送の機構の手がかりを得ることができました。現在、この輸送機構のメカニズムを解明するための実験を開始しています。
 同様に亜鉛の輸送蛋白質(ZnT1〜ZnT4)に関しても一部が脳の機能に関与していることが考えられるデータを得て、活気づいてきました。

   

  ライソゾームに蓄積する銅メタロチオネイン(ラット腎臓)

    撮影:法政大学 岡部雅史教授


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