生態発生学研究室

生物は環境により生理条件を変化させ,発生プロセスを改変することにより表現型を可塑的に変化させる.社会性昆虫など表現型がダイナミックに変化する昆虫を材料に,環境による表現型発現の分子機構とその 進化プロセスを解明することを目的として,分子発生学的・進化生態学的研究を展開している.

氏か育ちか?

生物の形質すなわち表現型は,遺伝子型によって決定されるわけだが,どの生物も遺伝子型が同じであれば全く同じ表現型を示す,というわけではない。たとえば,一卵性双生児のようなクローン個体同士は遺伝子型あるいはゲノム情報は全く同じものを持っているが,全く同じ顔や体型などの形質をもつわけではない。古くから「遺伝か環境か」「氏か育ちか」といわれるように,形質は遺伝的にだけではなく,環境の影響も受ける。このように環境要因によって表現型を可塑的に変化させることのできる性質を表現型可塑性(phenotypic plasticity)という。この性質は全ての生物に多少なりとも備わっている。ここでいう,「可塑性」とは言い換えると,「環境応答性」ということであり,意味なく環境条件に左右されて表現型がかわるのではなく,「適応的に」表現型を変化させ,その環境条件下で最適な表現型を発現することが重要なのである。

表現型可塑性とは?

では,表現型可塑性に遺伝子型は関係ないのか,というとそうではなく,環境と表現型の関係自体に影響を与えている。環境条件と表現型との関係を,反応基準(reaction norm)というが,このreaction normが遺伝的な支配を受けていると考えられている。つまり,遺伝子型によって環境への応答の仕方が異なる,ということである。逆にいうと,ゲノムに書かれているのは,生物の最終形(不変の表現型)の設計図なのではなく,生物の受ける外的要因(環境要因)に応じた遺伝子発現の連鎖により,最終的な形質を決めるその様式なのである。

表現型多型とは?

表現型多型とは,発現された表現型に不連続性が見られる場合であり,チョウの季節型やバッタの相変異などがよく知られている。このような例はいずれもそのときの生態環境に適応的なものとなっており,環境が変われば別のタイプの表現型が適応的になる。具体的には,季節などの環境の変動に適応した場合,捕食者などの選択圧が異なるような場合,他個体との相互作用により異なる表現型を生じる必要がある場合などが知られている。いずれも適応戦略に応じて発生プログラムを改変し,表現型の多型を実現している。

表現型多型は形質が不連続に生じることで定義されるが,その場合,2通りの生成過程が考えられる。環境が不連続な場合と,形質の発現に閾値を伴う場合である。チョウの季節型のように春と秋では幼虫が受ける日長や温度が異なるため,結果として生じる個体の形質が2通りの別のものになる。この場合,人為的に中間的な条件で飼育をすると実際に中間型が生じる。しかし一方で,中間的な条件を用いても中間的な個体が生じず,必ず不連続な多型を示す場合もある。その場合,形質を決める環境条件は連続でも,ある一定以上の閾値になると形質が不連続に変化する。

進化能としての可塑的形質

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