冬場に魚達はどうしているのか?ダイナミックな越冬移動と越冬集合

川の中で一生を過ごす魚の中には、個体の成長や季節変化などに合わせて支流-本流、流れの速い瀬-流れの遅い淵、といった異なる環境を上手く使い分けている種類がいます。特に環境の厳しい冬場は、限られた生息場所に多くの魚が集結するなどダイナミックな生息地利用の変化が見られます。ただ、河川が凍結したりする北方域では野外調査が困難なため、魚類の越冬生態はまだまだ不明な点が多いのが現状です。特に、新たな環境に入ってきた外来生物がどのように冬を過ごしているかはほぼ知見がありません。外来種の越冬特性を知ることで、効果的な個体群管理が可能になるかもしれません。今回、十勝川流域の10本の支流を定期的に調査することで、外来ニジマスの大規模な越冬集合が明らかになりました。また、付随した調査で、夏場に干上がってしまった小さな支流を調べることにより、これまで報告例の少なかったウグイやフクドジョウの越冬移動パターンの一端も見えてきました。

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寒そうな冬の川

外来ニジマスの大規模な越冬集合

ニジマスが広く分布する北海道十勝川流域の10本の支流において、夏期、冬期、春期に電気ショッカーを用いて個体数の変化を調べました。各支流で平均389m(範囲:190~877m)の調査区間を設けました。捕獲したニジマスは体サイズ、性別を記録しました。一部の個体は持ち帰り、年齢査定や性成熟の判定を行いました。また、調査区間内では、水温、水深、流速、底質、といった環境要因も評価し、個体数に関係する要因を検討しました。
夏期は全ての支流において、流呈100mあたり平均6.1個体(範囲:0~13.7)と低い密度を示しました。平均体サイズも100~200mm程度で、未成熟魚が大半を占めていました(図1)。しかし冬期には、4本の支流において、流呈100mあたり20~188個体と高い密度になりました。これらの支流では一つの淵で100個体以上捕獲されるケースもありました。さらに、捕獲された個体は250~300mmの比較的大きな魚が大半を占め、成熟メスも多くみられました。本流では夏期に大型の個体が確認されており、これらは越冬のために本流から遡上してきた個体と考えられます。越冬移動が認められた支流でも翌春には密度が大きく低下していました。一方、個体数の増加が認められなかった6本の支流では、体サイズの変化もみられませんでした。統計解析の結果から、越冬集合が確認された支流は水温が低く、流速が遅い傾向がありました。このような小支流は、代謝が抑えられるため、ニジマスの越冬場所に適しているのかもしれません。

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以上の結果から、北海道十勝川流域の外来ニジマスは通常は大きな本流で生活していますが、冬期に小さな支流に越冬移動し、しばしば非常に高い密度になることが分かりました。本流は規模が大きく流れが強いため、刺し網や電気ショッカーで魚を捕獲することが困難です。しかし、初冬の氷が張っていない時期に小支流で捕獲を行うと短時間で効果的に魚が捕獲できます。外来ニジマスの個体群管理が必要な場合には、越冬集合を狙った捕獲が有効だと考えられます。

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ひとつの淵で捕れたニジマス

越冬集合は魚類では比較的一般的な性質であるため、ニジマス以外の外来魚でも初冬の捕獲が個体群管理に有用かもしれません。また、新しい生息地に移入された外来ニジマスが、異なる生息地を季節によって使い分けていることも生態学的に興味深い現象です。外来種がどのように新天地に適応していくのかを調べることは、生態系管理上だけでなく進化生態学的にも重要です。

 

夏干上がった支流に、冬数千匹の魚が戻ってきた!

調査していた支流を翌年の夏に訪れたところ、ある小さな支流が干上がっていました。水が戻ってきた9月に調査しましたが、数匹のニジマスが捕れたのみでした。カワゲラ、カゲロウ、トビケラといった水生昆虫もほぼ見られませんでした。しかし、11月末に調査を行うと多数の魚類が捕獲されました。定量的に調べるため、支流の合流点から源流域までに5つの定点調査区を設け、除去法による個体数推定を行い、この支流に生息する魚類の全個体数を推定しました。

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夏枯れした小支流

解析の結果、一度魚がいなくなってから4ヶ月も経過しない間に、ニジマス、ウグイ、フクドジョウを中心に合計10、000匹以上の魚類が戻って来たことが明らかとなりました。成熟した親魚や遊泳力の弱い当歳魚(0歳魚)はほとんど見られず、若い未成熟魚が大半を占めていました。これまでニジマスやウグイといった遊泳力の高い魚では、しばしば大規模な越冬移動をすることが知られていました。しかし、主に川底で暮らし遊泳力が低いフクドジョウでも、このような季節移動があることが明らかとなった点は新しい知見です。一見、移動性が低いと思われる魚種でさえ、冬期はかなりの移動をするのかもしれません。

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今回調査した支流は人の手が加わったごく小さい水路状の河川です。このような一見生息に不適と思われる場所でも、多くの魚類が利用していることが明らかになりました。本研究成果は、河川改修の進んだ河川においても小さな人工水路が魚類の越冬生存を高める可能性を示しており、河川管理において重要な視点を提供するものです。

 

実際、冬場の研究例が少ないといっても、そこは研究者!面白いこともたくさん分かっています。過去の研究を紹介しながらさらに詳細な解説をしてあります。

 

 

原著論文はこちらで見られます

Extreme winter aggregation of invasive rainbow trout in small tributaries: implications for effective control (外来ニジマスの支流での極端な越冬集合:個体群管理への有用性を示唆). Koizumi I, Kanazawa Y, Yamazaki C, Tanaka Y and Takaya K (2016) Ichthyological Research, online first

Mass immigration of juvenile fishes into a small, once-dried tributary demonstrates the importance of remnant tributaries as wintering habitats(夏枯れした小支流に大量の魚が遡上:越冬場所としての小支流の重要性). Koizumi I, Tanaka Y, and Kanazawa Y (2016) Ichthyological Research, online first